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高齢者の椅子の選び方
高齢者のシーティングと椅子の選び方

            東京都立保健科学大学 木之瀬 隆

みなさんは椅子をいくつ使って生活されているだろうか。和式の生活であれば、椅子を使うことは屋内では少ないかもしれない。しかし、洋式の生活では椅子は切り離せない家具の一つである。毎日の生活を頭に描くと、朝起きて、朝食は椅子に座って食べる。仕事に行ってオフィスチェアに座りパソコン入力や会議室での会議用椅子に座るなど、仕事や日常生活で椅子は欠かせないものになっている。しかしながらマイチェアといえる椅子をもっている人は少ない。
 高齢者の生活ではどうであろうか。歩行ができなくなると車いすの出番になるが車いすは車なのであろうか、椅子なのであろうか。イギリスで在宅の高齢者のお宅を訪問したとき、80代のご婦人が椅子を指して、「これが私の椅子です。」といわれたことがある。ご婦人は歩行器を使用しながら、「この椅子は私の祖母が使っていたもので私も大事に使っています。」ということだった。自分に合った椅子があるということは寝たきり予防にも一役かうわけである。
  高齢者の椅子を考える際にシーティングというキーワードがある。ここではシーティングに関する説明とその視点より高齢者の椅子の選び方について解説する。

1.シーティングとは
  が座ることについてリハビリテーション工学の領域に「シーティング:seating」がある。日本語では「座位保持、座ること」となる。
  重度障害者がベッドから離れていかに快適に日中を過ごせるかはシーティング技術が重要な鍵になる。シーティングは障害者が椅子・車いすや座位保持装置を適切に活用し、自立性を高めることや、介護負担を軽減する技術である。現在のシーティング技術は予防の視点がより重要になってきている。座って作業する際の腰痛予防に関する椅子の対応や、自立的生活支援をするための椅子と車いすの活用法もある。
  北米では指標となる椅子座位姿勢が提案されている。人が椅子に座るときの姿勢は、横からみると、椅子に深く腰掛けて腰の部分が椅子の背で支えられ、床に踵がしっかり付き、股関節部、膝関節部、足関節部が約90度に近い姿勢である(図1)。いわゆる90度ルールといわれる姿勢である。また、正面からみると、頭部が真直ぐで、左右の肩や膝の高さが対照的な位置にある。車いす座位姿勢は椅子座位姿勢と比べると車いす走行性に合わせた姿勢となり、座って食事や作業を行うには不向きといえる。特に高齢者であれば、身体の大きさに合わせた木製の椅子を用いることが、安定した姿勢を保持し、生活を豊かにする用具の一つとなる。
2.移動能力に合わせた椅子の選び方
  日本の住環境は床座の文化で在宅生活は畳の床座生活が基本であるため、椅子が有効に活用されていない。欧米と比べると文化的な差が大きいといえるが、高齢者の場合、車いすのみを座る用具とせず、「椅子」を福祉用具として有効活用する視点が必要である。欧米では、椅子が座るための福祉用具として日常的に用いられている。重度障害者が離床し日中座ることを考えた場合、一日の生活を車いすのみで過ごすのには限界がある。歩行能力や立ち上がる能力が残っている高齢者では身体機能に合わせて椅子を選択することが重要となる(図2。移動能力からみた、椅子・車いすの選択方法では、自立的生活の支援を念頭におき、椅子・車いすの選択を進める。その上で介助者のサポートの有無や移乗用具を用いることで重度障害者の選択できる椅子が増える。
@スタンダード椅子(基本椅子)とは高齢者の身体寸法や座り心地、移乗に配慮された椅子である(図3-1)。おもに食堂などで使用するタイプで肘掛があり、背もたれは腋の下までのものと、ハイバックといわれる頭まで支えるタイプがある(図3-2)。移乗への配慮は立ち上がりのためにかかとが引きやすくしてあり、立ちしゃがみに肘掛がつかみやすくなっている。A調節椅子は対象者の身体寸法や障害に合わせた調節機能を持つ椅子である。一般的にはワークチェアといわれ5脚椅子で座面の高さ調節が可能で小回りの利くタイプである(図3-3)。障害者用にはハンドブレーキ付のタイプがあり、リウマチなどの方が利用している(図3-4)。調整範囲は肘掛の高さ、座面の奥行き、背もたれの高さ、角度などのすべての調節が可能で利用者への適合範囲が大きい。木製の調節椅子もあり座面の高さ調節を行うだけでも安定した座位が確保でき食事動作などが楽にできる。
Bリクライニング椅子は足のせ台のオットマン等が組み合わせて使用できる手動・電動の椅子になる(図3-5。休息用の椅子として居間やベッドの横に置かれる椅子である。テレビを見たり、リクライニングさせて居眠りをしたりとゆったりできる椅子である。このタイプには座面と背の角度が一定で全体が傾くティルト機能のついたものもあり、より安定したリクライニング座位が保たれる。また、電動のリクライニング椅子の中には電動昇降により立ち上がり動作を補助する機能の付いたものもあり、膝関節などの障害で立ち上がり動作は自分では難しいが立ち上がると自分で歩ける方に向いている(図3-6
C特殊椅子は限られた目的にのみ使用される椅子である。日本家屋では床座の生活が主であり、障害のある方にとって床からの立ち上がり動作は大変な負担である。それを補助する椅子として電動昇降の座椅子がある(図3-7)。そのほか、水周り専用のキャスター椅子などもある。
D座位保持椅子は発達障害児・者が一般的に使用している椅子である。身体障害者手帳で車いす上座位保持が難しい場合などにオーダーメイドで製作される椅子である。
E車いすは歩行が難しくなった状態で使用されるものである。スリングシートの折りたたみ車いすは移動用として利用し目的の場所では上記のいずれかの椅子に移るのが理想的である。現在は椅子機能の高いモジュラー車いすが日本でも導入され、利用者の身体寸法や使用目的に合わせた調節が利用者に座ってもらいながら行える(図3-8。また、寝たきり状態の重度障害がある場合はティルト・リクライニング機能付きモジュラー車いすを使用することで座位保持が可能になる(図3-9。上記の椅子と車いすを併用することで高齢者の日中の離床時間が大幅に延長できる。特に痴呆性高齢者で立ち上がり能力が残存する場合、移動は車いすで行い、食事や休息は身体機能にあった椅子を用いることが安全性を高める上で重要となる。実際の椅子の選択は利用者本人が30分から1時間程度座って選ぶことが大切である。

3.簡易座位能力分類と要介護度の関係
 高齢者のシーティングは国立身体障害者センター研究所の廣瀬秀行氏と私が高齢者の椅子に関する研究を始めたときのキーワードである。1990年より座位保持装置を用いて寝たきり状態の高齢者を座らせる研究を始めた。始めの頃は寝たきりの高齢者をなぜ起こさねばならないのかと聞かれることも多かったが、現在では寝たきり予防のためのシーティングの理解もなされつつある。
  身体拘束ゼロマニュアル(厚生労働省)が2001年3月に発行され、我々の開発した簡易座位能力分類(表)が車いすの対応方法として使われている。また、20028月には日本褥瘡学会の褥瘡対策の指針にも看護計画として簡易座位能力分類による対応が示されている。基本的な考え方は利用者の座位能力、身体機能等に合わせた椅子を選び、適合調整することが基本である。また、要介護度の認定基準にある身体機能面と合致している。しかし痴呆等がある場合は注意が必要である。次に、ケアプランの中では要介護度の身体機能と合わせて福祉用具の活用をアセスメントすることが重要で、簡易座位能力分類は椅子に座った状態で問題点を発見し、座位能力に合わせた対応ができある。

4.簡易座位能力分類と椅子の対応
@座位に問題なし:座位姿勢が安定し両手が自由に使える。また、自力で姿勢を変えることができる(表)。座位に問題がない場合、少しでも身体寸法に合わせた椅子を用意する。また、長い時間座っても安定する座面と背のしっかりした基本いすを使用する。基本いすは肘掛け椅子で、食事や作業活動に用いる背もたれが背中の途中までの椅子である。身体寸法との適合は、床からの座面の高さ、座面の奥行き、肘掛の高さが重要である。座面の高さは個人用の椅子であれば、椅子の脚を使用者に合わせて切って使う方法もある。背の奥行きは薄いクッションなどで調節することになる。また、高齢者の身体寸法に合わせた椅子も出てきている。
A座位に問題あり:椅子に座り自分で臀部の位置を変えられない利用者は、臀部が痛くならないような臀部全体で体重を受け止め滑り座りになりにくい椅子を使用する。クッション性の高いタイプで肩の高さまで支えられる椅子を使用する。車いす利用者で抑制帯を使用している場合など椅子を利用すると座位が安定し抑制帯をはずすことができる。椅子はテーブルと合わせ使用されることが基本であり、座位に問題ありのレベルはテーブルの天板の高さが調節できるタイプであると身体との適合性が高くなる。
B座位がとれない:車いすに座った段階で身体に痛み等の不具合が生じ、頭部や体幹がすぐに倒れてしまう状態。基本は重度の寝たきり状態の場合はティルト・リクライニング機能付モジュラー車いすや座位保持装置付の車いすを使用する必要がある。しかし、褥瘡予防の場合、車いす上でも1時間に一度は受圧部を変えることを米国厚生省のマニュアルでは挙げており、日中はベッドに戻るのでなく、ティルト・リクライニングできる椅子と併用することで離床時間の延長がはかれる。

5.まとめ
 介護保険には4月より福祉用具の貸与に5品目が加わった。その中にスライディングボード、立ち上がり座椅子がある。どちらも自立的生活支援に利用される用具であり、介護保険がより自立的生活支援に移行していることを示すものである。「座ること」は高齢者から重度障害のある方にとって重要であり、福祉用具としての視点で椅子の活用が期待される。

参考文献:
1.木之瀬隆、廣瀬秀行:高齢者の車いす座位能力分類と座位保持装置.Rehabilitation Engineering 13(2): 4-12,1998
2.木之瀬隆:身体拘束をしない椅子・車いすの使い方、月刊総合ケアp23-30 2  No.5 2002.5
3.厚生労働省身体拘束ゼロ作戦推進会議編:身体拘束ゼロへの手引き、身体拘束をなくすための「車いす」や「いす」30-362001.3
4.日本褥瘡学会編:褥瘡対策の指針.2002.8

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