「まだまだ、踏ん張ってます…けど…」
トラブル編
「すぐ来い、やれ来い、とにかく来い」
パソコンが言う事を聞かない時は、みんなどうするだろう。リセットする。電源を入れ直す。本体のサイドを右45度の角度から叩く。祈祷してもらう。念力に頼る。再インストールする。分解する。貧乏なRinRinに寄付する。と、いろいろ考えられる。「すぐ来てくれ」
受話器から開口一番、名前も告げないで、この一言。
「え〜、どちら様でしょうか」
「俺や、俺」
『俺さんか、なるほどよう分かる名前やな』
どっかで聞いた声ではある。
「先月、プリンタにドライバー入れてもうた××電器の山田や。忘れたんか、しょうないな」
『プリンターにドライバー入れて何すんねん!分解するつもりか!』そうそう、思い出した。得意先の人間には違い無いが、パソコンの担当では無い。確か総務のはずである。先月、総務が独自で買ったサポート外のパソコンでプリンタが動かんと騒いでいたのを、たまたま出向していたので、「サポート外です」と断ってインストールしてあげたのだが……。
「どうかしましたか」
「来てくれ。あのパソコンの事やねん」
「プリンタが動作しないんですか」
当然、ドライバのトラブルと思ったのだが…。
「ちゃう。とにかく、来てくれ。来てくれへんと説明でけへん」
説明できない。しかし、それでは対応出来ない。場合によってはかなり重症かも知れないのだから。
「ちょっと、待って下さい。トラブルの種類によっては、持って行かねばならないものも有りますから、状況を説明して下さい」
サポート外であるが、あまり冷たくも出来ない。こちらとしては、確実に対応したいだけである。
「アカンのか、来られへんのか。来てくれてもええやろ。困っとるんやから」
『こりゃちょっと、プッツリ切れそうやな』次の言葉を選ぶ…。
「分かりますが、私の方も、予定で動いてます。緊急の対応はしますが、優先順位もありますので」
ちょっとは、都合も判って欲しかった。しかし、その反応は……。
「そうか、もうええ。あんたとこは、そうか。あんたとこは、来んでもええわ」
最後の語尾発音は、爆発一歩手前。ギブアップ〜〜〜。
「すみません。今から伺います」
「そうか、来てくれるか。ほな、頼むわ。1時間後にあっちも来るさかいに」
『一時間後にあっちが〜〜〜?』なんじゃ、そりゃ。どうなっとるんや。
「もしもし、あの〜1時間て…」
「プツン。ツーツーツー」
切れてしまった。また電話をする訳にもいかない。いや、本当は確かめるべきだったかも知れない、あの『あっち』を……。
とりあえず、フロッピィやら、なんやらをバッグに詰めて事務所を出る。オートバイで行けば1時間で行けるはずである。
会社に着くと、担当者に出会った。
「おっ、どうしたん。呼んでへんで」
「いや、総務の山田さんから電話がありまして…。とにかく『来て欲しい』というので来たのですが、事情が判らないのですよ」
やっぱり、担当の知らん事らしい。
「山田課長か。なんやろ。俺知らんぞ……。いや待てよ、あれかな。そやな、そうやったら悪いけど頼むわ。課長、カッコだけはこだわるからな」
「えっ、何ですか、カッコって」
「まあ、とにかく課長とこへ行ってやってや。パソコンの場所知ってるやろ。今あそこに居るさかい」
何の事が判らないがとりあえず、総務の部屋へ行くと、パソコンの前には当の課長と2人の女性、一人は顔見知りの事務の子である。
「遅くなりました」
いや、本当は遅くはないが『いやみ』のつもりだった。しかし。。。
「おお、来てくれましたか。こっちこっち」
妙に丁寧だ。こりゃ、トラブルではないな……。
「え〜、紹介します、こちらはわが社の業務システム全部をサポートしてもらっているRinRinさんです。なんでも、聞いて下さい。え〜。RinRinさん、こちらは××銀行のシステムのトレーナーの××さん」
なんのこっちゃ。トレーナー教育の立ち会いか〜〜〜。『堪忍して〜な』
「じゃ、RinRinさん頼むわ。わし、ちょっと用事が有るんやわ」
私が声をかけようとしたが、右手で拝んで、出て行ってしまった。部屋には、私と事務の女の子とトレーナーの女性。
長い長い、1時間半が終わった。
事務の女の子が、必死でまとめたノートを片手に部屋を出て行った。すると、そのトレーナーの女性が…。
「RinRinさん、ご苦労さまです。やっぱり、突然呼ばれたようですね」
「えっ、どうしてですか」
「多いんですよ。システム管理部の無いところは、担当が総務課長あたりになるでしょ。外部の保守の人を呼ぶのが。まあ、聞き漏らしの時の保険ってところかな。でも、普通は一緒に聞いてくれるけど、ここの課長さん、よっぽど、パソコンが嫌いなようですね。たっぷり保守料請求した方がいいですよ」
トレーナーという職業も大変である。保守屋の私まで気をつかってくれて…。でも、これがお金にならないと知ったら、どんな顔をするかな〜〜〜。帰り際に、課長に挨拶しようと思ったが、見つからなかった。
その後、××銀行のシステムは問題なく動いているらしい。『らしい』と言うのは、何しろ、このパソコンは私のサポート外なのであるから。
去年、この課長はヒラに降格されたと風の噂に聞いた。