魔導時空遊園物語   第3章 ぷよぷよダンジョン“わくわくコース”

6 反省

「ああ、もう! また逃げられたー!!」
「油断したわね・・・やっぱり、アイツも腐ってもここの挑戦者だったのよ」
 ルルーは、インフォメーション嬢の言葉を如実に思い出さないわけにいかなかった。インフォメーションで、黒服の彼女は言っていた―――――“裏にはもっと上手いヤツもいるからね、気をつけな”―――――。
 てっきりルルーは、スキュラなどのスリの得意な魔物のこととばかり思っていたが、実際こういう意味もあったのだろう。モンスターやアルルの言う「愚か者」、それからこれに限らず「挑戦者」の中にもスリや盗み(や逃走)が得意なヤツがいるのだと・・・
 とは言え、ルルーは比較的落ち着いていた。ルルーはアルトの思惑にいち早く気づいていたし、失敗したとはいえ牽制もした。アルトを逃がしてしまった原因は、単にミノタウロスにあると思っていたので、ミノタウロスを数回蹴っ飛ばせば気が済んだ。反省すべきはミノタウロスなのだから、ルルーはミノタウロスを叱ることで、まだプライドを保っていられるわけだった。
 ルルーより悔しがっているのは、実はアルルの方だった。彼女は彼に、これで2度出し抜かれたことになる。どちらもあまりスマートでないやり方で逃げられているだけに、かなり腹を立てていた。
「何だよアイツ・・・! 経験値なんかホトンド稼いでなかったくせに、逃げ足だけあんなに速いなんて・・・」
 アルルは自分の油断を棚に上げて、アルトの卑怯さののしることしか出来なかった。どっかの闇魔導師のように空間移動などの不可抗力で逃げられる方が、それは実力の差だからまだ諦めもつく。アルトの場合、実力は明らかにアルトの方が格下だった。こっちの油断とスキが大きな仇となっただけに、余計に悔しい。
 アルルはアルトの落としていったバックを、足元で踊っていたカーバンクルにばこんと投げつけた。ついでにしゃがんで、カーバンクルをぐにぐにと弄くってみる。そうだ、考えてみればキミのせいだ。キミがアルトの食べ物に釣られて舌なんか伸ばすから・・・もう、お腹すいてたんなら、ちゃんと言ってくれればボクのカレーだって分けてあげたのにさ。
 ぐにぐにぐに ぐーにぐに
 最後には、『伸ばしてねじってパチンと放す』を繰り返した。
「やめなさい、アルル。それじゃただの八つ当たりよ」
 それはアルルにも分かっていたので、アルルはおとなしく手を引いた。カーバンクルは全く表情を変えずに、踊り続けている。ぐにぐに攻撃など、粘土細工のようなカーバンクルにとってノーダメージに等しい。
 アルルはカーバンクルからは手を引いたが、顔はブーたれたままだった。アルルはルルーほどではないが、意外にプライドが高いところがある。特に、卑怯者に対しては容赦がない―――――アルトのような臆病な愚か者に出し抜かれたことに、アルルのご機嫌はかなり急降下なようだった。
(・・・まったく、子どもなんだから)
 ルルーは、アルルの気を紛らわす意味もこめて、言った。
「アルル、せっかくだからそのバック、開けてみたら」
「え?」
 ルルーは、投げ捨てられたアルトのバッグを指差していた。
「アイツ、もうここに戻るつもりなんかないでしょうし。何か足しになりそうなアイテムくらいあるかもよ? それとも、ご丁寧にインフォメーションの落し物センターまで届けてあげる?」
「まさか」
 そう言って、アルルは何の遠慮もなくアルルはアルトのバッグを逆さまにした。冒険者の心得「虎の巻」――――落ちてるものは他人のでも拾え―――――転じて、人の家のタンスの中身は勇者のモノ(違う;)。
 最初に バラバラと落ちてきたのは、小石と小さなガラス玉。その他は、腐りかけたようなリンゴくらいだった。
「ホントにクズアイテムばっかね。呆れるわ」
「こんなガラクタと食べ物ばっかりで、よくこんなトコまで攻略してきたよね・・・」
 どう見てもただのガラス玉にしか見えない石を取り上げてアルルは呻いた。太陽の光を受けて光れば宝石か何かには見えるかもしれないが、中はヒビだらけで不透明だ。魔力も感じないし、どう考えても価値はなさそう。
「本当にしょーもないものばっかり。こんなのボクなら捨てるけど。荷物になるだけだし」 トゲのある言い方だった。
「そうね・・・ただ、アイツにとっては貴重品だったのかもよ」
 ルルーは、アルルとは別の光る石を拾って言った。
「モンスターの中には光モノ好きな連中もいるからね・・・。さっきのアイツのやり方からして、これを転がして魔物の気を引いた隙に逃げることくらいやりそうだわ。私は滅多にしないけど」
「ボクだってしないよ」
 アルルはガラス玉を放って、やや乱暴にバッグをガサガサと揺らした。機嫌はあまり直ってないようである。ルルーはやれやれと呆れて、しばらく傍観しておくことにした。
 バックからは、さらにガチャガチャと小型の折りたたみナイフだのスプーンだのピンライトだの、冒険の必需品ともいえそうなものが落ちてきた。それに絡まるようにして、しまいこんであった何本かの古びたロープや紙くずなども落ちてくる。しかし、どれも迷宮の中で特に役立ちそうなものではない。若干、らっきょやただの草が数点見つかったくらいである(喜んだのは、ミノタウロスだけだった)。
 アルルはバッグの底の方まで漁ってみたが、結局迷宮のアイテムらしきアイテムは見つからなかった。
「・・・よくもまぁ、こんな貧相な装備でここまで降りてきたものね。逆に感心するわ」
「そだね、回復薬ひとつ無いなんて・・・。全部使っちゃったのかな」
 そう言って、アルルは空になったバッグをもう一度手に取ろうとして、ふと手を止めた。
「・・・?」
 ―――――重い。
 鋭いルルーが、すばやくアルルの妙な表情に気づいた。
「どうしたのよ」
「空にしては、このバック・・・重い、気がする」
「まだ、何か入ってるんじゃないの」
「そんなことは無いと思うんだけど・・・」
 さっき、何も入っていないことを確かめたばかりだ。
 ただ、アルルでも“そういう”バッグがあることを、知らないわけではない。バッグをもう一度振ってみる。かすかにチャラチャラという金属音がした。
「・・・金貨?」
「可能性はあるわね。―――――たぶん」
「二重底」
 冒険者用のバッグによくある、二重底。万が一、敵に荷物を奪われた時に、貴重品の所持をカムフラージュするために、隠しポケットや二重底にしてあるバッグを持ち歩く冒険者は多いという。
 アルルは、アルトの小型ナイフでバッグの底をビリビリと破いた―――――予想通り。
 黒い布とバッグの底の間から、金貨がチャリチャリと落ちてきた。表にぷよぷよのシンボルマーク、そして裏側にはなぜかカーバンクルの模様が書き込まれた、裏迷宮用の通貨だった。金銀合わせて20枚くらいはある。それから、通貨に挟まるようにして滑り出てきたのが一枚の赤い紙。
「ふぅん、アイツにしてはよく稼いでるじゃないの」
「スッたんじゃないの」
 アルルは相変わらず、アルトには冷たい。意外と根に持つのね・・・と、ルルーは少し苦笑した。
 通貨には目もくれず、アルルは変わったロゴが打ち込まれた紙を手に取っていた。
「何これ・・・?」
 手のひらサイズの赤い紙。アルルはそこに書かれた文字を読んだ。

  

★龍王武闘大会★ エントリーチケット No.0013
8月2日、朝10:00までに、ファイヤーマウンテン内闘技場裏へご集合下さい…

  

「・・・あら、それ」
「ルルー、知ってるの?」
 紙に打ち込まれた派手なロゴを、ルルーは覚えていた。今朝、インフォメーションを出る時にチラッとだけ掲示板を見た。直前の、2人のインフォメーション嬢の言葉も覚えていないわけではない・・・。
龍王武闘大会ドラゴンズ・バトルよ。遊園地側のイベントね・・・なんでも、複数のドラゴンを競技場に放して、出場者がそれを倒すのを観戦するそうよ」
「へぇー」 アルルは、やっと気がまぎれたらしい。
「まぁ、相手がドラゴンっていうところが怪しいけど。せいぜい“火トカゲサラマンダー”か“コドモドラゴン”程度のドラゴンだと思うけどね・・・」
 ルルーは、金持ちや貴族連中の中には、実際は蛇や大トカゲでしかないのに、「ドラゴンを飼っている」などと吹聴するような大ホラ吹き連中がいることを知っていた。
「・・・でも、そんなイベント、あったかなぁ? ボク、一応遊園地のイベントは全部チェックしてるつもりなんだけど。ドラゴンを使ったイベントなら、普通、話題になってるよね」
 アルルは、首をかしげている。今ここに、遊園地のイベント一覧表があったら、すぐにでも見たいというカンジだ。裏迷宮には挑戦していても、“外”のイベントも気になるらしい。・・・遊園地に“遊びに”きたというのは、たしかに伊達ではないようだ。
「緊急告知、みたいなことを言ってたわよ。開催自体が、急に決まったんじゃないかしら。ホラ、このチケットの発行日時も・・・今朝よ」
「・・・ホントだ。ちょうど・・・ボクがこの迷宮に挑戦した頃かな? アイツ、こんな面白そうな大会を観るつもりだったんだ。・・・面白そうだし、もらっとこうかな」
「? それ、観戦チケットじゃないでしょ」
 ルルーは、チケットの端に見えた“エントリー”の文字を見落としていなかった。
参加者エントリーナンバー13・・・出場権があるってことよ。・・・アイツ、ドラゴンと戦うつもりだったのかしら?」
「えええ〜〜〜〜ッッ?!」
 アルルは、あからさまにゼッタイに信じられない、という顔をした。
「有り得ないよ。ナスグレイブやミニゾンビから逃げまくってるアイツに、いくらコドモドラゴンでもゼッタイ倒せない。逃げ回った挙句、リタイアするのがオチだよ!」
「そうね、私もそれはそう思うわ。例によって、他プレイヤーからスッたか強奪したんじゃないの」
「うん、きっとそうだ。アイツならやりかねないし」
 アルルとルルーの中で、アルトはすっかりスリの常習犯ということになった。
「で、アンタそれどうすんの」 ルルーは分かっていたが、一応聞いてみた。
「一応、もらっとくよ。アイツが持ってても役に立たない。暇だったらボクが参加してもいいしね。正直、拾ったモノで出場するのは気が引けるけど、アイツにはいろいろ悔しい思いさせられてるし・・・」
「やはりね・・・」 ルルーは反対しなかった。
「ルルーはいいの? 面白そうだよ、参加しない?」
「いらないわ、そのチケットはアンタの好きになさい。興味が沸いたら、“外”で自分で買うわ」
 ルルーがそう言ったので、アルルはチケットをバッグにしまった。
 その他のアルトの持っていた持ち物は、ただっ広い草の上に散らばったままだった。掃除する気は・・・ない。
「やれやれ。魔物とヘンなヤツのせいで、ずいぶん時間を喰っちゃったね」
「そうね・・・」
 ルルーは、急に視界が開けたような気がして空を見上げた。
 太陽の傾き具合から時間に大体の見当をつけようと思ったが、太陽はルルーが迷宮に足を踏み入れた時と同じように、ルルーの真上からサンサンと照りつけていた。動かない太陽――――つまり、この迷宮に夜はない。ルルーに分かったのはそれだけだった。

  

  

 最後の地下5階への階段は、ほどなく見つかった。アルルに言われるまでもなく、ルルーもこの先がボスフロアだということを知っていた。これもじいの情報だと言うと、アルルはまた何か言いたそうに表情をゆがめたが、何も言わなかった。
 5体目のぷよぷよ像の前で、ルルーは言った。
「じゃ、私たちは行くわよ」
「待って」 建物の入口で、アルルはルルーを呼び止めた。
「ん?」
 アルルは自分のバッグをガサガサとやって、『識別のレンズ』を数個ルルーに手渡した。
「とりあえず、さっきの交渉を終わらせておくよ。『レンズ』3つでいいよね、『魔導酒』と交換」
「ああ、・・・そうだったわね」
 忘れていたが、そういえば自分はアルルと交換トレードの最中だった。
 『魔導酒』を受け取ると、アルルは「ありがとっ」と言ってビンをバッグの中に大切そうにしまった。
「ふぅん・・・」
「何?」
「別に。ずいぶん大事に扱うじゃない、と思ってね」
「――――まぁね」
 アルルは意味深に言葉を切ると、パッと表情を変えて言った。
「あと、これもあげるよ」
 そう言ってアルルが取り出したのは、真っ白な小石だった。しかし、手にとってみると綿のように軽い。
「これは?」
「『浮石』」 と、アルルは言った。
「元師匠にもらったんだ。魔力を封じ込めた宝珠の一種。カケラをひとつ持ってるだけで、色んな攻撃を防げるんだ」
 アルルは得意げだった。
「アルトはルルーの獲物だったのに、チケットはボクがもらうことになっちゃったから。迷宮の中ではもちろん、世界でも滅多に手に入らない貴重品だよ」
「あら、律儀ね」
 ルルーはありがたく、その綿を砕いたような小さな石――――『浮石』を受け取った。本当に軽い。たぶん、水にでもかるく浮きそうだ・・・。
「頑張ってね、ルルー。ボクは昨日ここをクリアしちゃったから同じフロアにはいけないけど、また“外”で会おうね」
 アルルの笑顔に、ルルーはしばしば天邪鬼のような気分になる。今度も、俄かにその子鬼が目を覚ましたようだ。ふん、胸を張ってルルーは少し傲慢に言った。
「会わないわよ。私は、このままフロア=ボスを瞬殺して、アンタより早くこの迷宮を出るんだから。言っとくけど、これ以上アンタに頼る気はないわよ」
「そっか・・・」
 アルルは少し寂しそうな表情を見せたが、それは一瞬だった。アルルはすぐにもとの表情に戻って、軽く手を振った。
「じゃあね、ルルー。色々、手伝ってくれてありがと!」
「ふん・・・今回はアンタには結構助けられたし、一応お礼を言っておくわ。でも、今度会う時はアンタなんかよりずっと先に行っててやるからね。覚悟なさいよ」
 ルルーは、アルルが何かを言い返す前に、すばやく呪文スペルを唱えていた。間もなく床の降下が始まり、轟音と共にアルルはルルーの視界から消えていった。

   

   

 降下した最後の床板は、ルルーたちを真っ暗な空間に降ろして消えた。二本の松明だけが、正面に闇へ続く廊下が在ることを主張する意外は、冷たい空間だった。
 長い長い廊下だった。廊下は、壁の向こうの広々とした空間を囲うようにゆっくりとカーブしている。それは徐々に降下して、全体で螺旋を描いているらしい。ボスフロアはきっとその最深部だ。
「ミノ、トレーニングも兼ねて走るわよ!」
 はやる気持ちを抑えながら、ルルーはミノタウロスの返事を待たずにその暗い走り出した。ミノタウロスも遅れまいと、後に続く。廊下は、ミノタウロスひとり充分走れるくらいの幅があった。
「アルルは迷宮のアイテムについて、とても詳しく知っていましたね」
と、ミノタウロスが言うと、ルルーは走りながらちらりとミノタウロスを振り返った。
「アンタにしてはいいカンじゃない。たしかに、あの子はアイテムについてよく知っていたわ」
 その時、ルルーは一瞬だけ、魔物のような鋭い瞳をしていた。
「でも、たぶんその全てを自分で迷宮を探索して見つけた情報じゃないと思うわよ」
「――――?」
「だってあの子、言ってたじゃない。『タダで手に入れた情報じゃない』って」
 疑問符を浮かべるミノタウロスにルルーは少しだけ口調を緩め、「まぁ、あの子は隠したがってたようだけどね」とだけ言った。ルルーはさらに鋭く言う。
「たぶん、『魔導酒』をあの子が欲しがったのも、何か関係あると思うわ」
 ルルーは、最後に魔導酒を受け取ったときのアルルの表情を思い出していた。貴重品をバッグにしまう時の様子、レンズ3つを引き換えにしてまでの交換トレード。魔導力や気力の回復なら、迷宮内の魔法陣でも回復できるはずだ。自分が使うためだけのモノというよりも、他にも有効な使い道があるからこそアルルは魔導酒にこだわったのでは、とルルーは考えていた。
「“誰か”に『魔導酒』を持ってきたら、いい情報と交換トレードできる約束でも、取り付けてあるのかしらね・・・ふふ」
 ルルーは、まるでアルルとその“誰か”との交換トレードの様子を見てきたように言う。ミノタウロスは、時々、ルルーの恐るべき洞察力に驚愕させられることがある。ルルーがこのような表情をする時というのは、驚いたことに当たっている場合がかなり多い。ミノタウロスは、走りながら思わず聞いた。
「どうして、そんなことまでわかるんでスか??」
 ルルーは、やはり何ということはないという顔をしていた。
「簡単よ。あの子、さっき『魔導酒』を識別した時、言ってたじゃない。「変わった色だったし、「もしかしたら」とは思ったけど」って。もしかしたら、と思った・・・つまり、あの子は迷宮で『魔導酒』を手に入れたことは無いけど、見たことはあるのよ。しかも、“貴重品”だと知っている・・・誰かにそう教わったのね。魔導酒が具体的にどこで手に入るかさえ教えてくれない、親切じゃない誰かに」
 そして、ルルーのカンが正しければ、その相手は―――――駆け引きの百戦錬磨であるルルーでさえ、一瞬は警戒しなければならないだろう相手。おそらく、この初歩迷宮では貴重品である『識別のレンズ』やその他のアイテムをアルルがかなり詳しく知っていたのも、「彼」からの情報があってのことだ。
 どんな手を使って、あの魑魅魍魎の塊みたいな男からそれほどの情報を引き出したのかは知らないけど・・・・・・まったく、魔導とアイツの扱いにかけてだけは悔しいけれどあの子には舌を巻くわ。

「ふふん、あの子もあの子なりに頑張ってるじゃない・・・」

 走りながら、―――――自分は? と、ルルーはようやく自分に問いかけた。先刻から何度か問いかけようとして、結局してこなかった問だ。アルルと分かれて、ルルーはようやく自分を省みる余裕とある種の勇気を用意することが出来た。

 ―――――ルルーはインフォメーションに寄ってないんだよね

 先刻、アルルの吐いた何気ない言葉を思い出す。ボスフロアへ続く廊下の暗い壁に、魔導スーツ姿のアルルが浮き上がった。何かを言いたそうに表情をゆがめた、あのアルルだった。
 彼女は、そっぽ向いたような表情でなおも言う。

 ―――――なんだ、他人を小間使いにしただけじゃん・・・

「・・・・・・」

 ルルーは、アルルの姿を振り切るように、廊下を走るスピードをさらに速めた(ミノタウロスが少し遅れて速度を上げる―――――ルルーが少し緊張を強めたことが、ミノタウロスにも分かった―――――)。
 アルルは(実質)1人で迷宮に挑戦して、様々な情報を手に入れては更なる情報を集める努力をしているようだ。自分よりも数段上の上級挑戦者エキスパート愚か者フールとも対等、時にしたたかに渡り合おうとしている。「イマイチ本調子じゃない」とも言っていたが、戦いの時に見せた真剣さは冒険者そのものだった。
 それに比べて、自分は? 自分は、この迷宮に挑戦するためにどれほどの努力をした?
 もう一度、ルルーは自分に問いかけて、ギリと歯を軋ませた。

 本当になんてこと!

 たしかに私は、遊園地に来てから今までじいに頼りっぱなしだったわ・・・!

 今までそれが当たり前みたいに思ってた私も馬鹿だけど、考えてみればこの遊園地の裏の存在を探し当ててきたのもじいだったし、裏迷宮に入る法則だって、そのパスワードだって、じいが調べて得た情報。プレイヤー用の地図だって、迷宮用の通貨がないと購入できない(高すぎて、まだ購入できていない)と、アルルは言っていたのに、私はじいの協力でただで手に入れている。プレイヤーカードなんて基本的なアイテムさえ、じいに揃えてもらって肝心の自分はインフォメーションにさえ寄ってなかっただなんて、挑戦者が聞いて呆れるわ・・・! どうやら、迷宮を舐めていたのは悔しいけれどアルルの言うとおり私自身だったみたいだわ。じいの実力まで、自分の実力だとカン違いしてただなんて、虎の威を借るキツネだってビックリよ。これじゃあの子に“半人前”扱いされても仕方ないわ・・・。

 私ってばいつもそう・・・昔から、両親やじい、ラヴェンダーが全てからルルーを守ってくれると思っていた。自分の願いはあの人たちが、そして彼らが全て叶えてくれるものと。世界は自分が中心で、全てが思いのまま動くのだと。それが世界の全てだと・・・。
 ――――――けれど。

 ルルーは走りながら、目を閉じた。決別した過去、二度とあのような思いはしない。目標もある―――――ルルーは、もう一度あの日に誓う。

 私は16歳のあの日に思い知ったはずよ。自分が閉じこもっていた世界は全てニセモノ、世界は広い、自分の力が、自分が思い描いた世界がどれだけちっぽけなものなのか――――――サタン様と出会い、ミノと出会い、魔導学校と出会い、あの子と出会い、(ついでにあの魔導師も入れとくか)―――――その思いは確信に変わった。―――――だからこそ、私は歩み続けなくてはならない。そう心の底から誓ったはず。どんなに時間がかかっても、私は貴方に最も近いところまで成長すると!

 あの子も、悔しいけどあの魔導師だって、ここに自分だけの力を試しに来てる。なんてことかしら! 偉大なサタン様の后候補の、この私が負けていられるハズないわよね・・・!

「ミノ」
「何でスか、ルルー様」
 はやる気持ちを抑えながら、ルルーはミノタウロスを振り返らずに言った。
「ここのボスは、私一人で倒すわ。アンタは手出ししないで」
 ルルーの緊張が、ミノタウロスにも伝わった。
「はい、分かりましたルルー様。でスが・・・」
「? 何よ」
 ミノタウロスは、一瞬だけ戸惑ったが、意を決して答えた。
「自分はルルー様の従者でス。命令なので、戦いには決して手出しはしません。でも、ルルー様のお命が危なくなれば、自分は命令を無視してでも動きまス!」
「ふふん、私も見くびられたものね。でも、頼りにしてるわよ・・・“冥界の闇牛ミノタウロス”!」
「ぶもぉおおお〜〜〜〜〜〜!!」
 牛人の恐ろしい雄たけびが、廊下に響き渡った。
「ウルサイわよ!」 同時にルルーの怒号も飛んでいた。
 頑張れミノタウロス、愛の力で!

 いよいよ、迷宮の最深部にたどり着いた。ドラゴンが二体充分通れそうな横幅の巨大な門だった。緊張で俄かに胸が高鳴る。
 闇色の扉に手をかけながら、それにしても・・・、とルルーは思う。ルルーが思い出したのは、別れ際、少し元気の無かったアルルのことだ。

 それにしても あの子、なんとなく様子がおかしかったわね・・・。
 探索中の、ぼーっとした態度も気になったけど、そういえば初めから“例のアイテム”のために迷宮にマトモに挑戦している様子でもなかったし、ぼんやりしていて心ここに在らずとでも言うのかしら。
 魔物との戦闘で少しは元気が戻ったと思ったけど、アルトをアッサリ逃がしてしまうところなんて、あの子らしくないわ。いつものアルルならアイツが飛び込んできた瞬間、蹴りのひとつでも入れそうなのに。
 腕をケガしていて本調子じゃないと言っていたけど、魔物との戦闘を見る限りそれほど引きずっているようには見えなかったけれど・・・。
 ―――――何かあったのかしらね・・・?

 ボスフロアへの扉を開きながら、ルルーはそんなことを考えていた。

2007.2.28

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