魔導時空遊園物語   第3章 ぷよぷよダンジョン“わくわくコース”

4 駆け引き

 2人と2匹は、迷宮の地下3〜4階を実に順調に進んでいった。魔物にもいくつか出くわしたが、アルルが魔法を、あるいはルルーが奥義を使うまでもなく、ルルーとミノタウロスの拳だけで充分に撃退できた。一時など、ナスグレイブやみどりぷよが同時に4匹も相手にしなければならなかったにもかかわらず、アルルの応戦なくルルーとミノタウロスにミンチにされてしまった。アルルは傍らで傍観しているだけだった。
 アルルは全く魔法を使わずに進めることに酷く満足らしく、「やっぱり、ルルーたちと一緒だと“らくらくコース”だよ」と言った。・・・魔法をぶっ放すことが何よりも好きなアルルをよく知っているルルーは、その言葉に少し違和感を感じたが気にしないことにした。迷宮に挑戦する者として、極力魔力は温存する――――それも冒険者としては当然の心得だったからだ。(あくまでルルーの見解であるが、)アルルの場合、闇雲に魔法を撃ちすぎなのである。彼女は、魔導学校に在籍していた頃からそうだった―――――
「アンタ、今何やってんの?」
 ふと、魔導学校でのアルルを思い出したルルーは、唐突に聞いた。卒業してからも、何度か顔を合わす機会はあったが、ゆっくり話をすることはそういえばなかった。
 アルルも、この機会にルルーとは一度話をしておきたかったのだろう。聞かれれば答えられるようにしておいたらしい答えが返ってきた。
「相変わらずだよ。一流の魔導師目指して修行中。・・・ってこの前、弟子を首になったばかりだけど」
「だらしないわねぇ。ま、アンタみたいなヘナチョコ魔導師をマトモな弟子にしてくれる奇特な魔導師なんて、そう簡単に見つかるとは思えないけどね・・・」
「もちろんボクだって、初めからなんでも上手くいくなんて思ってないよ」
 アルルは苦笑した。アルルも、なんでも運とカンだけで世の中渡っているわけではないのだろう。それなりに苦労しているに違いない。そう見えないだけで。
「だから、今は新しい師匠を探すための旅をしてる。ここに来たのは、単なる暇つぶしだよ」
「・・・暇つぶし?」
 ルルーは、今度は意外に思った。ルルーはてっきり、あのインフォメーションにいたムカつく闇の魔導師と同じで、アルルもこの裏迷宮に隠された“すっごい魔法のアイテム”が目的でここに修行に来ているのだと考えていたからだ。もちろん、ルルーもそれが目的であり、だからこそルルーは闇の魔導師やアルルに出会った時、最初に『コイツはライバル』と認識したわけだ。
 ルルーは、アルルがいつものボケっぷりで“アイテム”の存在を知らないのか? と思った。だから、ルルーはさりげなくアルルに探りを入れてみた。ところが、アルルの答えは、ルルーの予想と反して、“アイテム”の存在をルルーと同じくらい知っていた。それどころか、あの闇の魔導師がそれを狙っていることさえも知っているという。
「へぇ、ルルーも知ってたんだね。シェゾがここに来てるって。どんなカンジだった?」
「アンタはどう思ったのよ」
 ルルーは、アルルの言葉に少々の違和感を感じながら切り返していた。
 ・・・? 珍しいわね、この子の方がアイツのことを聞いてくるなんて。・・・よっぽどアイツの様子に妙なところでもあったのかしら。
「ボク? ボクは・・・そうだなぁ。ボクが遊園地に着いたのは3日前なんだけどね。宿屋に案内してくれたのがシェゾなんだよ。ちょっとボクは、その前にちょっとした事件に巻き込まれててさ、ボクからその事件についての情報を聞き出そうとしてたみたい。なんていうか・・・すっごい張り切ってるカンジはしたよ。話し方からして、かなり先に進んでるんだと思う。結構話したんだけどね・・・どこまで進んでるかは、結局教えてくれなかったな」
「へぇ・・・」
 ナルホドね、とルルーは思った。
 ルルーはアルルの言葉に、インフォメーションでのあの魔導師の態度を正確に思い出していた。「シェゾはかなり進んでいると思う」、これにルルーも同感だったのだ。インフォメーションで見たシェゾの様子―――――案内係との慣れた会話の様子、クリスタルの手馴れた操作、ルルーを前にしてもなお落ち着いた態度―――――多少ルルーが進んでいたとしても、余裕で追いつけるか、あるいはかなり先に進んでいるくらいの余裕が見え隠れしていた。ルルーの方が、ヘタに焦りを露わにしないよう気をつけたくらいである。
 ルルーの心に、俄かに(アルルに対するそれより強い)シェゾに対する敵対心と焦りが生じた。自分は、こんな初歩迷宮でモタモタしている場合なのか? という焦りだ。自分は、アルルとのんびりたらたらピクニック気分で野原を歩いている場合ではないのでは? 自分は、アルル以上に出遅れている。シェゾはどのくらい進んでいるのかわからない―――――。
 ルルーはハッと顔を上げて、アルルを見た。アルルだって、プレイヤーとしてここにいるくらいだから、“アイテム”が欲しいに違いない。当然、アルルも今の自分と同じく、内心かなりの焦りを感じているはずだと思ったのだ。
 しかし、改めて見たアルルの表情に焦りはこれっぽちも見えなかった。
 “アイテム”の存在など全く知らないかのように、のほほんと草原を歩き、風を感じながら、ぼんやりと空を眺め、今にも「いい天気だよね〜」などとマヌケなことを言い出しそうな顔である。
(・・・ずいぶん余裕ね・・・。シェゾとはまた違った意味での余裕だけど)
 アルルは、ルルーと同じく迷宮をホトンド進んでいないはずなのに、どうしてあのように落ち着いていられるのだろう? ルルーは改めて疑問に思った。ルルーなど、迷宮の勝手をもう少し知っていれば、この迷宮の出口の方向さえ知っていれば、今すぐにでもそこへ全力疾走したいくらいだというのに。
 まぁ、ライバルが少ないことに越したことはないのだけれど。
(なんだか妙な気分だわね。それに、この子のこの表情・・・余裕というより、どちらかというと・・・)
 ルルーはしばし考え、思い当たった。
 そうだ、この子―――――やる気がない、ように見える――――ような気がした。天気の話をし出しそうなぼんやりした顔は、どこか心ここにあらずというカンジも・・・? 「ここに来たのは暇つぶしだよ」―――――その言葉通り、アルルはアイテムを手に入れる気などないというのか?
 しかし、ルルーは頭を切り替えた。今はアルルを心配している場合ではないのだから。
 アルルがそれほど進んでいなくて、それに比べてシェゾの方がかなり進んでいるのなら、自分やるべきことはただひとつ。そのシェゾとの差を出来るだけ早く埋めること。これこそ、ルルーにとって第一の課題であることはもはや間違いなかったのである。
 アルルの様子のおかしさは、一旦頭の隅に葬って、ルルーは迷宮をクリアすることに専念することに決めた。

 魔物をば“たんきゅ〜状態”にすると通貨が手に入ることもルルーは初めて知った。何に使えるのかは知らないが(ルルーは挑戦者用の宿屋を利用していない;)、アルルは週末までに1000G必要なのだという。
 少し広めの建物を見つけた時、ミノタウロスに入口の見張りをさせて、ルルーとアルルは中で一息つくことにした。ルルーは中で、自分が倒したぷよぷよ(複数)が落とした通貨を整理し、一部をアルルに差し出した。クリア優先だが、迷宮の情報も大事だ。
「何?」
 アルルはちょうど、荷物の整理をするため、ブロックの上にアイテムを並べている最中だった。
「200Gで交換トレード
 『交換トレード』―――――挑戦者プレイヤーあるいは、冒険者の隠語である。アルルの瞳に、冒険者らしい光が宿った。
「いいよ、何が欲しい?
 ルルーも、迷宮で拾ったいくつかのアイテムを別のブロックの上に取り出した。りんごや草、奇妙な色をした石。魔物が落としたものも含めて10種近くあったが、ルルーには使い方や効果がサッパリ分からないものばかりだった。
「アンタなら、使い方のわかるアイテムもいくつかあるんじゃないかしら?」
 アルルはしばらくルルーのアイテムを見ていたが、やがて言った。
「うーん、そうだね。とりあえず、小瓶や小石は無視した方がいいと思う。中には貴重品もあるかもしれないケド、ホトンドがただの『水』とか役に立たない『ガラス玉』だから。“外”に識別をしてもらえる施設もあるらしいから、そこできちんと見てもらった方がいいよ」
 そう言って、アルルは透明な小瓶と色の無い石はさっさとどけてしまった。ルルーが大事に持っていたアイテムは半分に減ってしまったが、アルルは広げたアイテムの中から、青色の小瓶を取って言った。
「たぶん、この薬は『回復薬』だと思う。ホラ、ボクの持ってるこれと、色が一緒」
 アルルが自分の荷物の中から取り出した小瓶も、同じ色をしていた。
「効果は?」
「ちょっと待って、カードで確認してみるから」
「カード? カードって・・・あの裏迷宮通行許可証プレイヤー=カード?」
「? そうだよ?」
 アルルは取り出したカードにスペルをかけて、中を開いた。アイテムの名前や効果、魔物の特徴や弱点など、様々な情報が魔法で書き込まれている。
「へぇ、そんな使い方もあるのね」
 ルルーの言い方に、アルルは少し変な顔をした。これくらい知ってて当然だとアルルは思っていたらしい。・・・悪かったわね、無知で。
「体力を少し回復してくれるみたい。きっと、魔導学校のショップで売ってたカレーライスみたいなもんだよ。ばたんきゅ〜になったら、迷宮を強制的に追い出されてしまうけど、これで回復しておけば大丈夫」
 アルルは、カードの文字を読み解きながら説明した。
 一方、ルルーのカードはまだホトンド何も書き込まれていないものの、おそらく迷宮をクリアするごとにこのページもどんどん埋まってゆくのだろう。迷宮の入口のキーになっていたり、意外と使い道の多いカードだ。じいからも、カードの基本的な性質は聞いていたが、それをあわせて考えても、これからますます重要になってゆくアイテムに違いない。
 アルルはアイテムとカードを見比べて、名前や効果の分かるアイテムを次々に分けていった。ホトンドは『回復薬』と『らっきょ』だったが、中には『ふくじんづけ』などという貴重品もあった。アルルによると、回復薬よりずっと効果の高い体力回復が望めるという。200Gでここまで出来れば上出来だ。気づけば、ルルーの持っていた正体不明のアイテムは残り2つになっていた。
「さて。ボクの知らないアイテムで、何かの効果がありそうなのはこれだけだね」
 妙な色をした液体が入った大きめのビンと、金色の小型ステッキ。
 アルルはさも判らないというような顔をしていたが、ルルーは知っていた。アルルは天才的な魔導のセンスを持ち、かつ一見お子サマのような顔をしておいて、冒険者としてのセンスも実はなかなかなのである。――――それを知っているルルーだからこそ見抜けたのであるが―――――金色のステッキをちらと見た時、アルルの目が一瞬キラリと光ったことを、ルルーは見逃していなかった。ルルーもルルーで魔導のセンスは破滅的でも、駆け引きのセンスは一流である。
「アンタ、・・・こっちのステッキの正体もわかってるんでしょ
「え、・・・え?」
 不意をつかれたアルルの目に、明らかな動揺が走った。アルルのセンスは一流だが、経験は浅い。そこがすでに社交界を渡り歩いたルルーとの最大の違いだ。
「・・・な、なんで? 別にボクは」
 アルルは無難な言葉を選んだらしいが、言葉はすでに自分の手の内を見せてしまっている。甘いわね、そこを凌ぐなら「知ってても教えない」くらい言えなくちゃ。
「ふふん、アルルのクセに私を騙すなんて100年早いのよ。おーっほっほっほ・・・
「き・・・キミだって、ボクと2つしか離れてないじゃないか」
「あら、それは経験の差というヤツよ。さぁ、何を隠していたのかしら? このステッキの正体は何?」
「ちぇ、わかったよ。その代わり、交換トレード料300G上乗せね。ボクだって、タダで手に入れた情報ばかりじゃないんだから」
 アルルもさすがに冒険者らしい態度を見せてくる。卒業してから、伊達に1人で旅をしてきたわけではないらしい。
「さすが、しめるところはしめてくるわね。いいわ、手を打ちましょう」
 成長したわね――――ルルーは一瞬、そんなことを考えたが、すぐに打ち消した。成長した――――つまり、魔導学校にいた頃はもっとずっと甘えた子どもに見えた―――――そいうことだが、多分それは違うのだろう。

 アルルの冒険者たるセンスは天性のものだ。このくらいの駆け引きは、学校に入学する以前から持っていた能力だろう。
 魔導学校でアルルが周りに甘えているように見えたのは、魔導学校の教師連がアルルをことのほか甘やかしていたため、アルル自身も甘えているように見えただけ―――――少なくともルルーはそう思っている。ルルーは、冷静な時はアルルを非常によく見ていた。本来のアルルは、魔導学校への入学のために1人で旅することの出来る冒険者としても一流の魔導師なハズだということを、ハッキリと見抜いていたのである。

 アルルは、やはりルルーのと同じ小型のステッキを持っていた。キラリとした金色の細工が特徴的だ。
『識別のレンズ』
と、アルルは言った。
「迷宮のアイテムなら、何でも使い方をカードに書き込めるアイテムだよ。迷宮を出てしまうと消えてしまうけど、攻略中は結構便利だし。迷宮に挑戦する前に、いくつかもらっておいたんだ」
「ふぅん・・・」 ルルーの意味深な相槌は、アルルの耳には届かなかった。
 アルルは『識別のレンズ』を軽く振って、最後に名前の分からなかった大型のビンに魔法をかけた。・・・ように見えた。力を発揮したステッキは、アルルの手の中で粉々になって崩れた。どうやら、一度使ったら無くなってしまう消費アイテムらしい。
「ふぅん、『魔導酒』か。まぁ、変わった色だったし、もしかしたらとは思ったけど・・・」
 ここでも、ルルーはアルルのセリフからあることに気づいたが、表情にはもちろん出さない。
「迷宮の中でアイテムの効果を調べるには、この『レンズ』がないと難しいってわけね」
「うーん、他に識別する方法もあるらしいんだけケドね。インフォメーションでもそれ以上は教えてくれなくて」
 アルルは自信なさげだった。アルルだって、言ってしまえばこの初歩迷宮を一度クリアしただけなのだ。上級挑戦者エキスパートとはちょっと言えない。まぁ、知らないのならば仕方がない。ルルーは話を戻した。
「この『魔導酒』は、いいアイテムなのかしら?」
「まぁ、クズアイテムじゃないよ。特に・・・ボクもそうだけど、魔導師ならゼッタイ欲しい。ねぇ、ルルー・・・モノは相談なんだけど」
オーッホッホッホ!! アンタの持ってるアイテム次第では、譲ってあげなくもないわよ!」
「うーん、ムカつく言い方だなぁ。じゃあ、『識別のレンズ』か・・・実は、もう一つ持ってるんだ。でも、できればこっちのカレーライスの方で手を打ってくれると嬉しいんだけど。この迷宮じゃゼッタイ手に入らないよ」
 アルルは、簡易にパックされたカレーライスを取り出した。たしかにこの初歩迷宮では手に入らないかもしれないが、普通この程度のアイテムなら街の道具屋でも売っている。迷宮探索の基本的なアイテムだった。もちろんルルーはバカではない。
「バカにするんじゃないわよ。『識別のレンズ』をもらうわ。これから、何かと役に立ちそうですものね」
「やっぱり、そうだよね・・・わかったよ。じゃあこれと、あとは・・・通貨でいいかな」
ホホホホ・・・甘いわね。私を舐めるのもいい加減にしなさいよ。アンタ・・・このアイテム、2つしか持ってなかったなんてこと無いわよね・・・? 2つしか持ってないのに、トレードの条件に自分から差し出すとは思えないもの。いくつか持ってるからこそ、アンタは『レンズ』をトレードの条件に提案した・・・違う?」
「う”・・・っ」 ルルーの賭けはまた見事に的中したようだ。ルルーはさらにカマをかける。
「私のカンでは、5,6個は持ってると思うんだけど?」
 顔に出やすい少女だ。ドツボにハマるとさらにいけない。その時のアルルのうろたえようといったら――――「たくさん持ってます」と顔に書いてあるようなもんだ。ルルーが、(その必要は無くとも、)思わず可哀想になるくらいである。
ホーッホッホッホ、バカ正直なんだから。安心なさい、全部巻き上げようなんて考えちゃないから。でも、気をつけなさいよ。・・・アンタ、ちょっと“駆け引き”を甘く見すぎだわ」
「え? そ、そうかな・・・?」
 自覚のないアルルを見かねて、ルルーは、急に高笑いをやめた。ルルー自身、少し心配になったのだ。アルルは確かに冒険者としてはかなり良いセンスを持っているが、考えてみればホンモノの冒険者やタヌキ連中が溢れかえっている場に混じって迷宮探索するのは初めてなのではないだろうか?
 ルルーは、急にそのことに思い当たったのである。
 ルルーの知りうる限り、彼女が今まで課題で探索してきた場所は、冒険者や魔導師の中でもマイナー中のマイナーな古代遺跡であったり、誰も彼もに忘れ去られたような超マニア迷宮で、どちらかというと他人との駆け引きより個人の実力が試される場だったような気がする。
 今までのルルーとの会話を思い返すまでもなく、アルルは明らかに駆け引きの経験不足だ。
 ルルーは一瞬、アルルをライバルだということを忘れ、アルルを諭そうとした。
「アルル、アンタは気づいてないかもしれないけれど・・・さっきのアンタみたいに、トレードの条件に自分から『これもあるけど、こっちにして欲しい』なんて滅多なことを言うもんじゃないわ。相手はアンタみたいなお人好しばかりとは限らないのよ。むしろ、自分の手の内を完全に隠して持ってるものを持ってないと言ってきたり―――――」
 しかし、その言葉は途中で別の声に遮られる。アルルとルルーの空間を割って、声を割り込ませたのは他でもないミノタウロスであった。血相を変えて、建物の中に飛び込んできた。
「ルルー様ッ 大変です!」
「どうしたのよ、ミノ」
 言いながら、ルルーは素早く周りの気配を察知した。ミノに言われるまでも無く、状況を判断する。―――――危険。
「モンスターに建物を囲まれました!!」
 アルルが素早く動いて、放り出してあったアイテムを片付けるところはさすがである。駆け引きには経験が無くとも、こういう行動力こそ冒険者としては一流だ。アイテムはアルルに任せて、ルルーとミノタウロスは外へ飛び出した。

 一瞬、野犬の群れかと思われた。積み木の建物を周りに、モンスターが群れを作って建物を睨みつけていた。殺気充分だ、今まで出会ってきた単独モンスターとは明らかに違う。
 腹を空かせた魔獣のごとく、牙を剥き、ルルーとミノタウロスの血肉を狙っていた。
「ナスグレイブも、ここまで群れるとさすがに気味悪いッスね」
 たしかに、青々とした緑が茂る草の間を、毒々しい紫色がワッサワッサと動くのを見るのは気持ちが良くない。草の動きを見るに、かなり大型の物も含まれているようだ。
「あら、そっちのゾンビが群れてる方が、よっぽど“鼻につく”カンジよ」
 一方のゾンビの集団の方をチラと見て言った。冗談抜きで、鼻がひん曲がりそうだ。出来れば集団で相手になるのはご勘弁願いたいが・・・
「そうも言ってられないみたいね!」
 先手必勝、ルルーが一気に気合を高めた瞬間だった。ルルーの気の爆発に刺激されたか、ナスの集団の一角が動いた。
 紫の集団がうねって、真横からルルーに突進してくる。ミノタウロスが動いて、大きく銀の斧を振りかぶる。
「一撃ィ!!」
 一直線だった。
 ミノタウロスの斧から繰り出された真空波が、風圧となって紫集団を引き裂いた。しかし、その集団の一角は崩れたが、残りは予測不能に跳ね回り、再びルルーたちを囲みだした。
 ナスグレイブは、バネのようによく跳ねる動きが特徴的なモンスターだ。跳ねる方向はフットボール並みに予測がつかないが、よく動きを見ていればそれほど手ごわい相手ではない。しかし、それは一匹を相手にする場合である。集団で襲われると、厄介なことこの上ない。陣形を再び整えたナスの集団は、今度は二方向からルルーたちを襲った。
「一撃ィ!!」
 片方の集団はミノタウロスの二度目の真空波で撃退した。そして、もう一方にはギリギリまで間合いを引き付けた、ルルーの足蹴りが炸裂した。
「邪魔よ!!」
 ズドン!!
 恐ろしい音がして、ナス集団の片翼は破壊された。ミノタウロスの目にも2,3体のナスとゾンビが“ばたんきゅ〜”状態となって迷宮の外に送還されるのを見た。しかし、ミノタウロスとしてはどう考えてもおかしいと思った――――いつものルルー様の気合の一撃が炸裂すれば、20体くらいのモンスターが中空を飛んでゆくはずである。
 それを物語るように、ルルーの表情は晴れやかではなかった。それどころか、自身の攻撃に全く満足していない。さらに、再びミノタウロスと背を合わせた瞬間こんなことを叫ぶ。
「ミノ! おかしいと思わない?!」
「ハイ、ルルー様! 
全く手ごたえが感じられません!!
 それとてミノタウロスも同様―――――自分の斧の真空波は、自分の特技の中でも数少ない破壊力を誇る技。いつもなら、ルルー様の波岩掌ほどではないが――――ナスの集団10体くらいは軽々と吹き飛ばされるはずなのに―――――
 一瞬後、ルルーとミノタウロスは同時に飛び出てそれぞれでナスの集団を相手にした後、再び建物の入口前で間合いを取った。やはりおかしい、これではまるで―――――自分たちが生み出す破壊のエネルギーが何者かに奪われてしまっているようではないか―――――
「ルルー様!」
 ルルーの死角で、ナスグレイブが跳ねた。例によってその予測不能の動きはルルーに体当たりを迫る。
 ―――――この間合いでは“受ける”しかない。最小限のダメージで済むよう、ルルーが身をかがめた瞬間、

「ファイヤー!!」

背中の紙一重の空間を火の玉が勢いよく通り過ぎ、体当たりを迫ったモンスターが一瞬の内に丸焦げになった。瀕死となって、地面に落ちる。あとは、ミノタウロスが踏みつけるだけでことは足りた。同時に建物の入口から声が届く。
「ルルー! ナスグレイブとミニゾンビの弱点は、“炎”だよ!!」
 アルルだった。言う間にも、炎の玉をいくつも作って、次々とモンスターの集団に命中させていた。風にあおられ大きくなった炎に、モンスターは明らかに圧されている。
「早く言ってほしいわ、そういうことは・・・ハァァッ
 ルルーは素早く気合を集中させた。同時に、周りの精霊に働きかける――――アルルはファイヤーを使えたのだから、炎の精霊は活動しているはずだ――――ルルーはそう信じて、正に目の前に迫っていたミニゾンビに“奥義”を放った。
「炎陣掌!!」
「!?」
 違和感を感じたのは、ルルーだけではない。ミノタウロスさえ振り返った。
 何もおきない?! そんなバカな! 炎の精霊さえいないというの!? そんなはず無いわ・・・アルルには炎の魔法“ファイヤー”が使えているのだから・・・!
「ちっ」
 拳のダメージだけで、大したダメージを与えられなかったミニゾンビは、少しのけぞっただけですぐに引っかいてきた。ミニゾンビの引っかき傷は油断ならない。何と言っても体全体が腐っている。傷口から菌を入れられたら、タチの悪い感染症を引き起こす可能性だってある。
 ルルーはのけぞるように間合いを取った。図らずも、建物のそばで戦っていたアルルと背中を合わせることになる。
「くっ、まさか炎陣掌も発動しないなんてね・・・!」
「ルルー」
 アルルが切羽詰った様子で叫んでいた。
「キミ、まさかこれも知らないの?! この迷宮の精霊はホトンドを封印されてるんだ!!」
「・・・封印ですって?!」
 ルルーが術が発動しないことに気づいた時、最初に考えて“まさか”と一蹴した可能性が瞬時に蘇った。
「そう!」
 アルルが杖に噛み付いてきたミニゾンビを、杖ごと振り放して逃れた。バットのように振られた杖を思わず放したミニゾンビは、勢いあまって建物の一角に激突し、運悪く崩れたブロックの下敷きになった。動かない。アルルはなおも叫ぶ。
「炎霊、水霊、雷霊、風霊! 攻撃魔法と回復魔法に必要なありとあらゆる精霊が完ッ璧に活動を封じられてる! ――――炎霊も氷霊も自分で魔導書を探して、一体一体解呪呪文を調べて解放していくしかない! ボクだって今は、ファイヤーアイスくらいしかマトモに使えないんだから!!
 ファイヤーとアイス。それは、(ルルーを除いて)魔導学校の低学年レベルが簡単に扱う魔法だった。対して、アルルは“見習い魔導師”――――――魔導学校を卒業すれば、ある程度の魔導は軽々と使いこなせる魔導の(一応の)エキスパート――――それが、今のアルルの(ルルーも含めた)肩書きのハズだった。
「・・・大した見習い魔導師ね!」
「何とでも言いなよ、このモンスターを全滅させてからね!」

 ミノタウロスの奮闘もあって、2人はなんとか大量のナスとゾンビの集団を全滅させることが出来た。おかげで、通貨とアイテム、経験値は大量に手に入ったが、ルルーの表情はかなり歪んでいた。もちろん、ゾンビを殴らざるを得なかったこともあって、拾った水を使って丁寧に拭いたりしているあたり、それにもかなりイライラしていたのであろうが、別の理由があったことも確かだ。

 息を切らしながら、アルルが聞いてきた。
「なんで・・・魔法・・・とか、精霊の力を借りる技の一切が封じられてるって・・・知らないのさ」
「し・・・知るわけないじゃない。そんな・・・無数にいる精霊をすべて完全に封印しているだなんて、聞いたこと無いわ。不可能よ。だいたいアンタ、炎の魔法を使ってたじゃない。なんで、私がダメでアンタの魔法は使えるのよ」
「・・・ボクも非常識だとは思ったけどさ。最初に2体の精霊だけ、インフォメーションで解呪してもらえるんだよ。聞いてないの?」
「何をよ?」
インフォメーションだよ。説明受けたでしょ? 裏迷宮通行許可証プレイヤー=カードを発行してもらう時に」
 ルルーは一瞬、何のことだろうと思ったが、すぐに「ああ」と呟いた。
「一応寄ってはみたけどね、・・・気に入らない面子(シェゾを含む)がいたから話を聞く前に引ッ返したのよ。そのままこの迷宮に挑戦したから・・・」
「・・・・・・ええ? じゃあ、何ッにも聞いてないってこと? アイテムや魔法陣の使い方とか、冒険をどんな風に進めるのかとか」
「う”。そ・・・そんなもの、何度か迷宮を探索したら自然に気づくものじゃない?」
「死んでも知らないよ〜」
 アルルは強がりを言うルルーをたしなめた。しかしその表情は、途中で「あれ?」というものに変わる。
「でもルルー、インフォメーションに寄ってないんなら、プレイヤー=カードはどこで手に入れたの」
「おーっほっほっほ!」
 ルルーは、アルルからたしなめられた辛辣を振り払うように高笑いを始めた。・・・一種の強がりである。
「?」 アルルに言わせれば、ルルーは時々ワケが分からない。
「これだから庶民は困るわね!」
「なんだよ?」
「そんな細かいもの、私が用意するまでもないわね。アンタと違ってね、私には優秀な侍従がいるの。必要なものは私が言う前に、彼らが用意するのよ。それで私は迷宮探索に専念できるってワケ、おわかり?」
「なんだ、他人を小間使いにしただけじゃん」
「なぁんですってぇ!?」
 ルルーの拳は、かたわらで黙っていたミノタウロスに命中しかけた。ミノタウロスは硬直したが、その拳はミノタウロスに命中する前にピタリと止まった。代わりにルルーは、周りにはそれと分からないよう、一方の脚に気合を集中させていた。

 どうやらふと気づいた気配に、大いに気が変わったらしい。

「ふん! むかつくけど、その話は後よ。ちょっと、気になるヤツが・・・いるのよね!
 最後の瞬間、爆発的に脚の力を解放させてルルーの剛速球ならぬ剛速脚が、背後の建物の脇に激突した。

 ばっかーん!!

 見た目からして、積み木を積んだだけのような建物だ。ブロックの一部は大きく揺れ、さながらそこだけ大地震が起こったかのように揺れ動いた。――――――(あまり嬉しくない?)新たな出会いの瞬間だ。

「どわ―――――ッ!?」

『え?』
 新たな人の声に、アルルとミノタウロスが同時に建物を見上げると、赤い屋根から見知らぬ男が落ちてくるところだった。

 ここだけの話だが、実は『見知らぬ男』というのは、正確には間違いだ。なぜなら、この男と少なくともアルルは顔を合わせたことがあるはずだったからだ。

 

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こぼれ話(『創造主伝説』―――自分的世界の捏造者の思い込みを記した書、から)
【読みたい人だけ読みましょう】
 
注意書き:全然正規の魔導物語の設定に全く無いことを、さも真の設定のごとく書いています。
      これを、
真の設定だと思わないで下さい。それだけは、絶対にダメです。

■「みどりぷよ」「ナスグレイブ」について。
 とっても一般的な魔物です。何処にでもいます。数で言えば、みどりぷよの方が多いです。まですが、ナスの方がたまに台所に本物と混じってまぎれていたりしますので、実害は多いかもしれません。まぁ、・・・あれです。現実世界で言う犬やネコの大型版って所ですかね。犬やネコでも集団で牙むかれて襲い掛かられたら、けっこう怖いと思う。
 ちなみにナスグレイブは、畑にもよく出現します。農家のおじさんも畑を荒らしていく上に、農作物にまぎれて見つけにくいので、とっても困ってると言っています。

■「ミニゾンビ」について。
 墓場などで時々うろついている子どもの死体です(たぶん)。子どもの亡骸は、強い魔力に中てられると動き出す、と考えられています。魔法とは縁のない人里で天然のゾンビはあまり見られませんが(黒魔術師などの手によって造られた人工物は除く)、近くに魔王の城なんかがあると、周りの墓場はゾンビだらけだったりして(笑)。

 

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2007.2.11