魔導時空遊園物語   第2章 裏迷宮への道

4 愚か者フール

 アルルは看板を見た。
『無法者』
「・・・・・・」 古びた看板だった。まぁ、・・・シェゾにはお似合いかな・・・。
 押し戸をあけて入ると、酒と葉巻の匂いが鼻をついた。薄暗かったが、右手前から奥に伸びるカウンターに人が2,3人いる以外は、誰もいないことぐらいはわかった。広く見えるのは人が少ないからだ。
 アルルが入った瞬間は手前に座っていた男がちらりとこちらを見ただけだったが、続いてシェゾが入ってきた時、酒場の雰囲気が若干変わったのがアルルにもわかった。緊張に似た空気が漂ったような気がする。バーテンダーでさえ落ち着かない様子でカウンターに背を向け、酒の整理を始めてしまった。
 ・・・とは言え、シェゾは何も気にしていないようなので、アルルもまた気にしないことにしたが。
「二階が宿になってる」 低い声で、シェゾがカウンターの奥を差した。まるで闇へと続いているかのような階段が見える。
「泊まるつもりなら、あのバーテンに声をかければいい」
「あ、そうか」
 忘れてたけど、そういや今夜はどこかに泊まらなきゃなんないんだっけ。
 アルルは、どうにかなると思っていたので明日の心配はあまりしていなかった。いざとなったら、森でも屋根の上ででも普通に寝る人間である。まぁ今夜の場合、遊園地で徹夜で遊ぶことを選んだだろうが。
 シェゾは店の奥に行ったが、アルルはカウンターの方に近づいた。
「いらっしゃい、・・・泊まりかい」 どう対応してよいかわからない、そんな声をかけられた。
 わりと大柄な男だ。身長こそシェゾほどはないだろうけど、横幅も大きいからそう変わらない印象を受けた。複雑に絡まったような髭が顔の半分ほどを覆って不潔っぽいなと、アルルは思った。男の小さな目が自分の肩を越えてシェゾの方へ走ったが、アルルは気づかないフリをした。
「まぁ、とりあえずね」 アルルはあいまいに答えた。
「・・・あの裏迷宮をクリアするまでだろう。部屋は勝手に使ってくれ、それがオレのサービスだ」
 妙にかすれた声だ。酒場の主人らしからぬ目が、ちらちらとシェゾの方へ走っていた。
「お代は・・・」
「裏迷宮用の通貨があれば、週末ごとに払ってもらってるよ」
裏迷宮用の通貨?
「・・・まだ、裏迷宮に入ってないんだな。この街や、園内の一部の店では園外とは別の通貨を使って取引するんだよ・・・」
 これだ、と言われて見せられた金貨には、たしかにアルルの持っている普通の金貨とデザインが違う。“わくわくぷよぷよランド”のシンボルらしい、魔物の“ぷよぷよ”が中央に描かれた斬新なデザインだ(魔物をシンボルに刻むとは・・・)。ちなみに裏にはアルルのよく見知った生物が刻まれているのだが、ここでアルルが気づくことはなかった。
「これはどこで換金してもらうの?」
「残念ながら、換金場所は無い。裏迷宮を探索すれば、手に入ることもあると聞いている・・・」
「はぁー、ナルホドね」 
 アルルは、妙に感心した。つまりアトラクションに挑戦する気のない者は、宿さえ利用できないのだ。徹底した、ダンジョンの充実振りだね。おもしろいけど。
「じゃ、ボクは今日はここに泊まれないの?」 別に、アルルはそれでかまわなかったのだが。
「いやいや、・・・代金は週末でいいんだ」 主人は慌てて言った。女の子ひとりを、いまさら街の外へ追い出すわけにはいかないとでも思ったのか・・・
「オレたちァ、裏迷宮への客は拒まねぇ。末日まで、まだ3日あるからそれまでに揃えてくれればいいよ」
 アルルは、そんなことはゼッタイ無いと確信していたが、一応聞いてみる。
「揃えて出せなかった時はどうなるの?」
 アルルにそんなつもりはこれっぽちもなかったが、主人は思いっきり申し訳なさそうに言った。
「・・・すまないが、規則でね。通貨の3倍の値で、園外の金貨を受け取っている」
 主人は、ふぅ、と思いため息をついて、かぎ束を取り出した。・・・そんなに鍵は付いていなかったが。
 束から取った古びた鍵をアルルに渡す時、主人はもう一度シェゾに視線をやってから低い声で言った。「譲ちゃん・・・アンタ、あの客と知り合いかい」
「うん? 知り合い・・・まぁ、それが妥当なセンかな・・・」 アルルは鍵を受け取りながら、どうだろう?と頭をひねった――――。
 実のところ、それはアルルにもよくわかってない。自分としては・・・仲間、友だち(親友は違う)、と言ってしまっても別にいいと思っているのだが、シェゾが認めるところは想像しがたい気がした。(のワリに、今日みたいに普通に話しかけて、宿に案内してくれたりする―――意図はよくわからないが)
 アルルが思案していると、男は言いにくそうに口を開いた。
「・・・オレァ、客のいざこざに口を出す気はねぇが・・・、アイツは気をつけた方がいい。・・・評判が良くねぇ。ここに来た早々、凄みだけで客の喧嘩を止めさしちまった時も驚いたけどよ・・・。二日ぐらい前にもサファリの獣人を半殺しにしてるんだ」
「へー」(ある異世界の住人の一部なら、この返答を「へえボタン」のようだと思っただろう)
 シェゾのことだ。全く何もやってないなんてことはない、とは思ってたけど。
 ったく・・・こっちには目立つようなカッコをいさめておきながら、自分だって充分目立ったことやってるんじゃないか。偉そうなこと言えないよ、――――と、アルルは思った。
「・・・まぁ、勝手なんだがな・・・」 その時に主人がアルルを見た目は、何かおかしなモノでも見たような目だった。アルルの表情にまったく陰りが見えなかったことが、かなり奇妙だったらしい。
「おじさん、アイツっていつぐらいからここにいるの?」
「あ、ああ・・・まぁ、だいたい・・・2,3週間は経つと思う、が・・・」 主人の言葉はあいまいだ。
「お客さんの中で長い方なんじゃない?」
「ああ、そうだな・・・たいていの客は、1週間かそこらで出て行く・・・。妥当だと思うがな。・・・オレは裏迷宮なんて興味ねぇからよくは知らねぇが、なんでも大型の魔獣やドラゴンがぞろぞろ蠢いてるって聞く。オレは死にに来たんじゃない、そう言って出てったヤツがいたな・・・どんな世界なんだか、想像したくもねぇ」
 アルルはゾクッと来た。当然だが、恐怖じゃない。大型の魔獣ドラゴン? ・・・ダンジョンの序盤からドラゴンだなんて、あまりに非常識すぎやしないだろうか。一瞬、アルルの胸に期待と同時にある期待したくない可能性が沸いたが、表情には出さなかった。
「・・・ふーん、おじさんはプレイヤーじゃないんだね」
 アルルの言葉に、主人はとんでもないと言う風に首を振った。
「オレャ、給料が良かったんで故郷から園に応募しただけだ。従業員として雇われたはいいが、こんな宿を任されるなんて思ってなかったよ。園の中の情報なんてひとつも知らねぇ」
 何度も聞かれて飽き飽きしている、そんなカンジの言い方でもあった。これは、あまり探ってもいい情報は出てこないかな・・・。
「なるほどね・・・じゃ、あと1つだけ」 アルルは鍵をバッグに閉まった。
「宿にはアイツ含めて、何人の人が泊まってるの?」
「よく把握しとらんが・・・だいたい3、4人だ。毎週4、5人の客が入るが、出るヤツもそのくらいいる」
 いい加減だ・・・だが、アルルにはそれが返って心地よいとも思える。
 アルルは「ありがと」と言って、さっさとカウンターに背を向けた。

「長かったな、情報収集か」 シェゾがニヤリとして言った。
「まぁ、そんなとこ」
 アルルはシェゾと同じテーブルに腰掛けた。シェゾはどこから持ってきたのか、酒ビンを開けて飲んでいる。
「この街は、挑戦者プレイヤーの宿泊施設が集まる街なんだね」
「まぁな・・・こっちはずいぶん前に寂れた村に掘っ立て小屋を持ってきたに過ぎんがな。一級専用施設はダンジョンの敷地にでかでかとある。気取ったようなホテル街だ」
 シェゾの口ぶりは冷ややかだった。・・・まぁ、シェゾが“気取ったホテル街”を闊歩する姿は、確かに想像できないが・・・。アルルは“ホテル街”を想像して、どこかの格闘女王さまならその中でも最高級のホテルに身を置くのだろうか、などと考えていた。
「飲むか、魔導酒だ」 シェゾが金属のグラスを差し出している。
「イタダキマス」 アルルは無表情に答えた。
 ずいぶん気前がいいな、と思ったのだ―――まぁ、たまーにあることではある。シェゾの機嫌がすこぶるいい時なんかがそう。
「魔導酒なんて、(こんなド田舎じゃ)なかなか手に入らないんじゃないの」
「・・・ダンジョンではごろごろ、とはいかねぇがワリと楽に手に入る」
「へぇ・・・?」
「もっとも、楽に迷宮をクリアできねぇと言えねえことだがな」
 優越感たっぷりだ。アルルは、カウンターの主人の言葉を思い出して唐突に気づいた。
 ・・・こりゃ、もしかして・・・アトラクションを、ずいぶん先に進んでいるからこういう態度を取ってくるんじゃないか?
 アルルは、くすんだ金属グラスに酒を注ぐシェゾの顔を見た。・・・どこかで最近見た顔だ。アルルは記憶をまさぐる。場所は、そうスターライトステージのそば。・・・そうだ、アイツ――――――夜盗と会う前、“サウンドステージ通り”のカフェ(名前は忘れた)から見えた“アディアン飯店”のテラスにいた冒険者

 ――――――小さな何か紙切れのようなものだ。満足げな笑みを浮かべてそれを見ている。・・・なんだか、達成感のようなものさえ感じられる気がした――――――

「キミさ、・・・誰よりも自分が進んでると思ってるでしょ」
「な・・・っっ!?」 一瞬前までの寛いだ表情ら一変、まるで雷にでも撃たれたかのような表情だ。
「あ、図星だね」 アルルは、なんでもないという風に酒を飲んだ。・・・不思議な味だ、魔導酒なんてたいていそうだけど。
「・・・な、てめ・・・! クソ、さっき初めてここに来たって言うのは、嘘か!? ちっ、なんてヤツ・・・」
「違うよ、言ってみただけ。そんな気がしたから」
「・・・・・・」
 シェゾはまだ疑ったような目をしていたが、何も言わなかった。
「・・・獣人を半殺しにしたんだって?」
「バーテンに聞いたのか」
「そう。キミも目立つのが好きだよねぇ」 皮肉をこめた言い方だった。
「ふん、周りがどう思おうと知ったことじゃない。それにあれはヤツが悪い。身の程を知るべきだったな」
 シェゾの口はさらっと言ってのけて、酒を含む。バツの悪そうな顔なんて、ちらりとも見せない。――――シェゾらしい態度だ。
「何かキミが気に入らないことでもやっんじゃないの」
「・・・違う」 シェゾはキッパリと言った。
「獣人は、ワンダージャングル―――遊戯施設アトラクションのひとつだが―――、そこのサファリにも確かにいる。だから、客のほどんどはそこから逃げ出した獣人が騒ぎを起こしたと思っている。・・・だが、違うな。あの獣人は明らかにオレの『プレイヤーカード』を狙っていた」
『プレイヤーカード』って?」
 アルルは聞いてから、シェゾがそれを教える可能性は低いかも知れないと思った。しかし、シェゾは一瞬、探るようにアルルを見て、―――これはアルルの気のせいかもしれないが―――アルルの背後の誰かを見、再び手に持つ魔導酒に視線を戻した。
「まぁ、どうせここにいる以上、明日には知ることになることだしな」
 シェゾは一旦グラスを置いて、古びたバッグから板のようなものを取り出した。
「いいだろう、よく聞けよ。これは、Player Cardという裏迷宮挑戦者の専用アイテムだ」
「・・・このカードが?」
「裏迷宮へ挑戦している、証明書のようなモンだ」
 シェゾが取り出したのは、手のひらとちょうど同じぐらいの青色のカードだった。アルルは、カードを取り出した時のシェゾの表情が、テラスで見た冒険者の表情と一番よくにていると思った。―――そういえば、あの冒険者が見ていた“何か”もこのカードとよく似てはなかったか?
 カードいうには少し大きめだ。しかし、アルルが気になったのはそんなことじゃなかった。カードの裏にも表にも、何も書かれてなかったことだ。
「何も書かれてないね」
「裏迷宮に挑戦する際の中心的なシステムだからな。そう簡単に情報は読めん。だが、ある呪文スペルをかけることによって、プレイヤーの様々な情報が浮き出る。そこにはいくつか重要な情報もある」
「プレイヤーの・・・プレイ状況とか?」
 アルルは、なんとなく魔導学校の試験の生徒が持つ、試験成績記入ノートを思い浮かべた。
「いいカンだな、似てなくはない。実際それもわかるしな。まぁまず、このカードを持っていることで、一般客ではない“プレイヤー”だということがわかる。明日、お前も手にすることになるんだろうが、それだけでも相当な情報だ」
「それはわかる」
 同じ挑戦者プレイヤーだとわかれば、情報やアイテムを交換トレードできたり、場合によってはパーティを組んで互いに協力し合うこともできる。逆に敵対関係に陥る場合もあるが、そう予想できることで対処できることもある。
 実は冒険において、周りのことが“何もわからない”ことこそが最も恐るべき状態なのである。冒険歴の長いアルルはその重要性がよくわかっていた。
「だが、中でも最も重要な情報とシステムがEXポイントと呼ばれる、得点システムだ」
「EXポイント・・・」
Experience Point、平たくで言えばこの園内でプレイするプレイヤーの成績だな」
 アルルは、やっぱり魔導学校で使った『試験成績記入ノート』と同じだと思った。試験の成績をノートに記録し加算してゆき、その総合計で合格か不合格かを決める試験があったのを思い出した。
 シェゾに「園内の地図を持っているか」と聞かれたので、アルルはスターライトステージ前で一度広げた地図を机の上に広げた。
「これは、一般客用の地図だな。いいか、オレたちがいるのが園の外れ・・・この辺にある街だ」
 シェゾが指を立てたところは、地図の外側だった。スターライトステージの裏手をかなり進んだ場所で、これはアルルも自分の足で歩いてきた道のりなのでよくわかる。
裏街ヴェネスは一般客には必要の無いところだから、当然これには書かれていない。普通、客どもが泊まるのは専ら園内のここ・・・さっき言った“ホテル街”だ」
 シェゾは、“ファイアーマウンテン”と書かれたアトラクションの南側の一角を指していた。アルルが歩いた、お菓子の家が立ち並ぶ広場を一望できそうな建物がたくさん描かれている。シェゾは、その広場から続く道を辿って―――アルルが最初に通った道のりと似ている―――、地図を手に入れたインフォメーションのそばで止まった。
「ここに詳しいプレイヤー用の地図があるから見るといいが・・・、園内には4つのプレイヤー用の裏迷宮があると言われている。「ファイアーマウンテン」「ウォーターパラダイス」「スターライトステージ」、そして中央のこの「ぷよぷよダンジョン」と呼ばれるアトラクションがそれだ。この4つの迷宮をクリアすれば“例のモノ”が手に入るわけだが、このそれぞれのアトラクションに挑戦するためにはある条件が必要でな」
「それが、EXP?」
「そういうことだ」 シェゾは、わかって当然という風に言った。
「ダンジョンには、プレイヤーも含めて敵やアイテムにもそれぞれ得点ポイントが設定されているらしい。強い敵ほど、珍しいアイテムほど高いポイントだ。敵は倒せば、アイテムは手に入れればポイントが加算される。そのポイントの合計が一定以上溜まれば、新たなダンジョンに挑戦できる可能性が出てくる・・・」
「へぇ・・・ただクリアするだけじゃ、次の迷宮ダンジョンには挑戦できないってことか」
 なかなか厄介だな、という考えが一瞬だけ頭を掠めた。
「そういうことだ。EXPはダンジョン内でアイテムを手に入れたり、モンスターを倒すことで稼げるが、もうひとつ、自分と同じプレイヤーのカードを奪うことによっても稼げる。従って、ダンジョン内・外問わずプレイヤーを襲ってカードを強奪しようとする連中がいるんだよ。まぁ、オレの場合、あの獣人は誰かの手先だったんだろうが・・・」
「へぇ・・・」
 魔導の類には、魔物を操る呪文スペルというものも存在する。アルルは何の気なしに、数日前にシエラがふくろうに同類の呪文をかけていた姿を思い出していた。
 ―――――つまりそれが、シェゾやボクが狙われた理由――――
 シェゾの結論はそういうことか?
 アルルはようやく、さっきの夜盗が自分を挑戦者プレイヤーだとカン違いして、襲ってきたのだという事を理解した。自分が夜中にひとりで(しかもフルアーマーで)ダンジョンの周りをうろついているから、なんらかのダンジョンをクリアした後だと思った、ということか。ダンジョンをクリアした直後なら、EXPをたっぷり含んだカードを持っていて不思議じゃない、あの夜盗たちがそう判断したとしたら――――?
 アルルは、それでも少納得し難いような気もした。自分を挑戦者プレイヤーだと思ったことは間違い無いだろうが、本当にEXPが目的だったにしては彼らはずいぶん打算的だったような気がするのである。カードを狙うということは、下手をすれば自分のカードも奪われかねない状況だ。攻略の一環として他プレイヤーのカードを狙うなら、もっと計画的に相手を迎え撃つべきじゃないだろうか。そう、例えば2日前にシェゾを狙ったというプレイヤーのように、魔物を手先に使って慎重に徹するとか――――
 アルルがそんな意見を素直に述べると、シェゾは意外に満足そうな表情カオをした(なぜかはよくわからないが、シェゾは最近、自分の前でこういう表情をすることが多くなった気がする――――と、アルルは思う)。
「ふっ、・・・まぁ、たしかにヤツらの狙いはお前のカードに刻まれたEXPよりむしろ、お前が持ってるハズの・・・“アイテム”の方だったと思うぜ」
「え?」
「まぁ、聞け・・・アトラクションは基本的にクリアしなければアイテムも通貨も没収だ。もちろんEXPもだが。つまり、最初のアトラクションをクリアできない者―――オレたちは敗者ルーザと呼ぶが―――ヤツらは、何も手に入れられないままアトラクションを出なければならない。普通ならそこは情報を集めて出直すか、諦めるかだ。それはわかるか?」
 アルルは黙ってうなずいた。というより、それしかないんじゃないの? と、アルルは思った。
 敵わない、と思ったら自分で修行を繰り返して再挑戦すればいい。とりあえず、諦めるべきだ。
「だが、実力がねぇことを認めもせずに、ゴキブリみてぇに屯して他プレイヤーをダンジョン外で奇襲して、アイテムを奪って行く連中がいる。お前を襲ったのは、恐らくそういう連中だよ。奪ったアイテムを使って、ダンジョンをクリアしようともくろむヤツらだ。オレたちはそいつらを愚か者フールと呼んでいる。こいつらは失うものは何も無いんでかなり手荒なマネをする。・・・ある意味、カードが目的のヤツより厄介だな」
 アルルは、シェゾがこの街へ来る途中にそんなことを言っていたことを思い出した。それに、たしか・・・

『酒場から先は『フール』どものナワバリなんだぞ!? ・・・』

「・・・あいつらはボクから奪ったアイテムで、最初のダンジョンをクリアしようとしてたってこと?」
「そんなとこだろ」と、シェゾが頷いた。
 ―――――それで、そんなに強くなかったんだ、とアルルは納得した。
 思い起こせば、たしかに夜盗の首領格の男が「アイテムを寄越せ」とかなんとか言っていた気もする。
「オマエがそんなカッコでいるモンだから、プレイヤーに間違いないと考えたんだろうな」
 シェゾはアルルの魔導スーツに身を包んだままの格好を見て、ニヤリと口元を歪めた。
「・・・悪かったね。どーせこれがボクの普段着だよ」
 シェゾにひとこと文句をつけてから、アルルは改めて先刻の夜盗――――首領格の男の顔を思い出す。焦りを絵に描いたような表情を貼り付けて、魔導師とはいえ女子どもひとり相手にずいぶんな手荒なやり方だったな、と思う。その行動理由を知った今、思い出したように怪我が疼き、どっと疲れが出た気がした。
「なるほどねぇ・・・あのひと騒動に、そんな裏があったなんて。・・・でも、なんかそれって姑息だよね」
 アルルのやや長い溜息に、シェゾは同調した。
「むしろ、そのやり方に呆れるだろ。だが、ダンジョン内はこんなモンじゃないぞ。待ち伏せ・引ったくり・騙まし討ち・・・野心に燃えているヤツほど何だってやる。・・・全く、“遊園地”が聞いて呆れるぜ」
 そう吐き捨てて、グラスに残った魔導酒を飲み干した。
「・・・・・・・・・」
 アルルはしばらく絶句した。―――――おいおい、愚か者フールだけじゃないんですか。
 自分の実力では敵わないからと、他人の努力を横取りしてまでクリアを目論むのも信じられないが、ある程度ダンジョンをクリアできる上級挑戦者エキスパートにまでそんな真似する輩がいるっていうの?
 冒険の上級挑戦者エキスパートなら上級挑戦者エキスパートらしく、できるだけ情報やアイテムの交換トレードや協力関係で乗り切るもの―――と、いうのが一応のアルルの常識だった。アルルは夜盗らの姑息なやり方に呆れる一方で、シェゾより非常識なヤツが相当いることにちょっと驚いていた。
「お前、今 オレのことをすげぇバカにしなかったか」
 シェゾが鈍く呆れたアルルの思考を鋭く遮り、冷たい目を向けていたが、アルルはあえて無視した。ついでに、なんでわかったんだ? という素朴な疑問もちょっとそこらへんに置いといて・・・
「してないよ。ただ、ちょっと・・・シェゾにも常識があったんだなー、って思っただけ」
「・・・オマエな」
 アルルは誤魔化すように、いつの間にか空になった自分のグラスに酒を足した。
「ウソウソ、忘れて。でも、話を聞いてて正直驚いちゃったよ。プレイヤーカードとかEXPがないとクリアも挑戦もできないシステムとか、結構凝ってるよね。専用通貨もあるみたいだし・・・意外にマトモに面白そう」
 アルルは、話の切り替えがちょっと無理矢理だったかな、とも思ったが、シェゾは少々渋い顔をしただけだった。・・・深く追求するのは諦めたらしい。
「・・・面白くないとでも思ってたのか? どう考えても普通じゃねぇことぐらい、園に入った瞬間わかりそうなもんだが」
 やはりシェゾも最初から感づいていたらしい。裏で蠢く挑戦者プレイヤーたちの緊迫した“気配”に。
「そりゃさすがに、ただの遊園地だとは思ってなかったけど・・・ドラゴンがいたり、観覧車が空飛んだりとかあまりに非常識なモンだからさ。・・・正直ついさっきまで、迷宮ダンジョンどころかこの遊園地自体がどっかのヒマな魔王あたりが趣味で作ったくっだらない杜撰なシロモンなんじゃないか、とか思ってたんだよね」
 ・・・散々な言われようだぞ、“どっかのヒマな魔王”さん。
「・・・なるほどな。・・・たしかに
 シェゾは、一瞬呆れ半分の遠い目をした。最後の小さな口の中だけでの呟きも、アルルは聞き逃していなかった。
「・・・・・・だがまぁ、オレがプレイした限りで言えば、魔物にもそれぞれ弱点と特徴がハッキリ分かれているようだし、手に入るアイテムもレアモノほど手に入れるのに苦労する。かなり完成度が高いと見ていいだろう。・・・少なくとも、最近まで育毛剤のお世話になってた迷惑なヅラ野郎が何も考えずに掘っ立てたようなダンジョンシステムよりはよほど工夫された中身だと思うがな」
 なぜかこの2人は、特定の話題が持ち上がった場合、気が合うようである。シェゾは再び酒の入ったグラスを手に取った。アルルも、付き合って酒を汲む。
 お互い、どんよりとした姑息な連中の話をしたばかりで気が滅入っていた。気晴らしに、気の合う話題はもってこいだ。話は長くなりそうだった。
「・・・アレが作るダンジョンっていったら、ほとほと非常識だもんねぇ」 アルルは乾いたため息をついた。
 シェゾも同じく調子を合わせる。
「・・・入り口にイキナリ、ケルベロスがいてみたり、な」
 ちなみにケルベロスと言えば魔界でもかなり上位の力を持つ魔獣である。普通、滅多にお目にかかれない。
「かと思えば、散々苦労して開けた扉から繋がる部屋はお手洗い、とか・・・ねぇ」
 さっきまでの、少々緊迫したムードは何処へやら。2人はすっかり、萎えモードに入っている。
「・・・そう言えば、もう2ヶ月ぐらい経つっけ? アレが太陽おっきくして世界に散々迷惑かけたのって」
「ああ、・・・異常気象の影響で、未だに完全に復興しきれていない村や街も多いらしいな」
 魔導師という職業柄、そういう情報はお互いよく耳に入っていた。
「湖岸のアリスの村では湖が干上がっちゃって、未だに対岸の国まで歩いて行けるらしいよ」
「太陽の力で結界を張ってた神殿で、夜になっても結界が解けないもんだから、神官と巫女が神殿に入れない、又は閉じ込められる事件も各地であったな」
 すでに笑い話である。

 その夜、アルルは久しぶりにシェゾとよく話した。
 バーテンが心配そうに見ていたことにアルルが気づいていたのかはよくわからない。

 

back■■■■■■return■■■■■■next

 

こぼれ話(『創造主伝説』―――自分的世界の捏造者の思い込みを記した書、から)
【読みたい人だけ読みましょう】
 
注意書き:全然正規の魔導物語の設定に全く無いことを、さも真の設定のごとく書いています。
      これを、
真の設定だと思わないで下さい。それだけは、絶対にダメです。

■「無法者」について。
 宿の名前です。むほうもの、と読みます。まったく設備の整ってない格安の壊れかけた宿ですね。酒場も経営してるけど、宿に関しては全くと言っていいほど寝る場所の提供以外、何のサービスもありません。そこがシェゾやアルルにとって最大の魅力だったと言えるでしょう。彼らは余計な干渉や時間などに縛られたりするのを嫌いますからね。その分、自分の責任でやってく苦労もありますが、それは冒険者たる彼らの十八番と言うものです。
 食事料金は、下の酒場で別に取ります。あの大柄のヒゲ親父(バーテンダーのこと)、結構料理も上手いんですよ。まぁ、このくだらん設定が今後生かされるかどうかは全く不明です。だって、彼らはホトンドたぶん経費節減のために自炊ですよ(-_-;。つーか、宿にいることなんてあるんだろうか・・・毎夜ダンジョンで徹夜してそう(汗)。

■「4つのアトラクション」について。
 この時点でシェゾはアルルに、プレイを始める時に『インフォメーション』で得られる情報以上のことはホトンド話していません。インフォメーションで得られる情報によると、「ぷよぷよダンジョン」「ファイヤーマウンテン」「ウォーターパラダイス」「スターライトステージ」、この4つのアトラクションをクリアすれば、またはクリアした時点でなんらかのイベントが起こり、『例のアイテム』が手に入る・・・ということですが、シェゾを含む上級挑戦者エキスパートの間では、それ以外にも各アトラクションには何らかの秘密があるという噂が囁かれています。

■「どっかのヒマな魔王が2ヶ月前に起こした事件」について。
 ええ、『あの事件』です。一応、2ヶ月ぐらい経ってることにしました。本編でもドラコがルルーに向かって「ぷよぷよシリーズで一度も主役やったこと無いくせに!」ってケンカを売るシーンがあったので、このぷよぷよダンジョンでの出来事はSUNより後の出来事なんだと勝手に解釈した次第です。
 まぁ、太陽をデカくするぐらいですからねぇ。「笑い話」じゃ済まない所も多かっただろうと思います。雨が降らなくて大干ばつが発生して、農作物は全てやられたんじゃないかな。野菜や穀物の値段が高騰して、魔導世界の市場は史上まれなインフレーション!? 飢饉が発生して、餓死者が続出・・・その上、異常な乾燥がもたらす様々な異常気象が折り重なって、多大な被害が出たとも予想できます・・・が、そこは魔導世界ですものね。きっと各地の賢者や魔導師たちが活躍して、最小限の被害で済んだとでも思っておきましょう★
 被害が収まった現在も、各地の魔導師や王国の騎士さんたちは、村や街の復興のために各地で頑張っておられると思われます。シェゾはともかくアルルさん、アナタそんなところで遊んでていいんですか?!(いいんです、アルルだから♪)

2006.1.22

back■■■■■■return■■■■■■next