魔導時空遊園物語   第2章 裏迷宮への道

第2章 裏迷宮への道

   

1 湖上のテーマパーク

 しばらくして飛空挺内に、カーバンクルガールのお姉さんのアナウンスが響いた。
「まもなく終着駅“わくわくぷよぷよランド”の外門前に到着しますよー。お忘れ物のないように、ここで準備をしておいてくださいね〜」
 アルルは、手近な窓を開けて地上を見た。ひんやりとした夜風が涼しい。あたりは濃い霧で囲まれていて様子はよくわからなかったが、真下で飛空挺の着陸サインらしいライトラインが綺麗に光っているのが目に入った。
 ライトラインを辿ると前方に、霧の中に溶け込むようにして大きな湖が見えた。夜の闇を湖面に映して、とても深い色をしている。・・・幻想的だな、とアルルは思った。
 風の抵抗でわかる。飛空挺が中空で静かに制止し、ゆっくりと高度を降ろし始めた。地平線に沈んでゆく湖の先に目指す遊園地がある。そう思うだけでアルルの心はワクワクした。待ち受ける冒険、危険、出会い、そして未知ゆえの発見、驚き・・・それらのすべては自分の心を成長させる。アルルはそんな冒険が大好きだった。自分は目指すテーマパークについて、情報はホトンド持っていない。これから目指す遊園地は、自分にとって全くの未知数だった。
「ワクワクするね、カー君。こんなにワクワクしたの、何ヶ月ぶりかな・・・」
「ぐぐぅ?」
 カーバンクルは眠たいようで、相槌を打つとすぐに眠ってしまった。
(あらら、引っ張りまわしすぎたかな・・・)
 思えば、召喚鉄道からかれこれ半日、乗り物に揺られっぱなしだった。召喚鉄道の「岩石地帯駅」から乗り換えたこの飛空挺も、噂どおりの辺境地を目指している。ももも族が開発した世界最速の大型飛空挺らしいが、それでも風向き次第で遅れることもあるという。こんな辺境地にあるにもかかわらず、大陸各地から大勢の人が集まるなんて一体どんな遊園地なんだろう。
 ああ、早く行きたい。きっと何か待っている、そんな気がした。期待で胸が熱くなる・・・。アルルの期待と緊張は、カーバンクルと違って高ぶるばかりだった。
 飛空挺が地上で完全に停止したころには、すでに月は中天に達していた。複数の客に混じって飛空挺を降りると、そこは上空で見たとおり飛空挺の着陸場だった。霧に覆われた湖がすぐそばに見えている。
「テーマパークに行く人たちですね。ようこそ、“わくわくぷよぷよランド”へ。さぁ、どうぞ船へ」
 霧の中から声がした。またも、カーバンクルガールのお姉さんが湖に浮かべた小さな船の上からこちらに手を振っていた。長旅で疲れたのか、客たちは一言もしゃべらないですばやく船に乗り込んでいく。はしゃぎ気味なのはアルルひとりのようである。・・・静かだ。
「皆さん乗っていただけましたか。出発しますよー」
 本当に静かで、お姉さんの声がひときわ遠くまで響き、船はすぅと岸から離れ始めた。霧が後方へ流れて、視界が広がってゆく。アルルはふと湖面を見た。
「うわぁ・・・」
 まるで鏡のようだ。船の抵抗があるはずなのに、ほとんど波立ってない。アルルの頭上に輝く星さえも、湖は鮮明に映し出している。
「これ、もしかして・・・」
 アルルはバックから小さな白い小石を取り出して、湖に沈めてみた。予想通り、小さな波紋を残して小石は湖中にゆっくりゆっくり沈んでゆく。その石が見えなくなるまでアルルは湖面を見つめていた。
「さあ、見えてきましたよ! ご覧ください、あれが“わくわくぷよぷよランド”です!」
 ハッとなって振り返る。いつの間にか霧は完全に晴れていた。
「おお・・・っ」
 今の今まで黙っていた客たちが、急に目を見張って一斉にうめいた。
 目指すテーマパークは、船が近づくにつれてぐんぐんと頭上高くのしあがってゆく。ライトアップされた光が湖面と夜闇を照らしながら、夜の来訪者たちを歓迎していた。
 光のカーテンを何枚かくぐった先、“ブルーステーション”と書かれた看板の前で船はようやく止まった。「完全に停止してから、降りてくださいねー。湖に落ちても助けませんからー」
 なにげに無責任なことをいうお姉さんをよそに、客たちは次々と慣れた足取りで船を下りてゆく。船から岸へ飛び移る人もいた。・・・夜、しかも足場の不安定な船からスムーズに降りる行為は、実は思うほど簡単ではない。一般人なら普通、船の乗務員の手を借りて降りる。まぁ、夜にテーマパークに来ようと思うぐらいだ。家族連れ等でないことはわかっていたのだが・・・自分もそうだが、いやに旅慣れた人が多いな、とアルルは思った。
「・・・偶然、かな」
 彼らは船を降りると音もなく、さっさと入場門へ向かってしまった。自分も、と駆け出そうとした瞬間、後ろから呼び止められた。
「待って、貴女。この子、あなたのお友だちくんでしょ?」
「あっ・・・」
 しまった、カー君を忘れていた! アルルは慌ててカーバンクルをお姉さんから受け取った。
「す、すいません・・・」
「いいえ、いいのよ。・・・かわいいわね、私のカッコとよく似てる」
「あ、あはははは・・・それ、この子をモデルにしたんじゃないんですか?」
 この子はカーバンクル、と言う前にお姉さんは再び船を漕ぎ出していた。
「さぁ・・・これはオーナーのデザインだから。残念ながらどんな人かは知らないのよ」
 「だから、わからない」その人がそう言った瞬間、すれ違いざまに入場門に向かった最後の乗客が、ふとカーバンクルに目を向けたのが、アルルはなんとなく気になった。

 入場券を買う窓口には、すでにさっきまで一緒だった客の姿はなかった。飛空挺でも船でも思ったことだが、本当に何をするにも無駄のない人たちだった。遊園地に来るくらいだから、もう少し浮かれていてもいいはずなのにな、アルルはなんとなくそんなことを思いながら、チケットを買って中に入った。
 ・・・想像以上にすごい。
 入場門前の広場は、すべてがおとぎの国を思わせた。広い通りにお菓子の家が立ち並び、甘い匂いを漂わせながら色々な菓子類を売っていた。昼間はきっと子どもたちでいっぱいになるんだろう。アルルは早速、目についたチョコレートの店に入って商品を眺めた。
「商品はすべて園内限定よ。どれでも買っていって」
 店員さんがニコニコと話しかけてくる。カーバンクルもおいしそうな匂いにつられて目を覚ましていた。アルルは、もう明日から思いっきり遊ぶ覚悟で持ちお金のすべてをお菓子に捌いた(遊園地内にももも銀行ぐらいあるだろう、と判断したらしい)。子どものようにパイやケーキやチョコレートなど、思う存分買ったのは久しぶりだ。いつもはダンジョン探索に明け暮れてるし、カーバンクルは恐ろしく大食いなので、食糧配分には極力気を配って切り詰めてきた。その配分能力はすでにプロ並み―――だと、アルルは自負している・・・。そんな生活だったから、最近おなか一杯食べたのは何処にでもあるカレーライスだったことを思い出して苦笑した。・・・別にカレーが嫌いなわけじゃないけどねぇ。
「はい、これはカー君の分ね」
「ぐぐぅ!!」
 店を出て、そこかしこに置かれているきのこのオブジェに腰掛けた。買ったばかりの暖かいパイをを口にほおばりながら、しばし広場を眺める。
 夜半近いというのに、なんて大勢の人々。アルルが見た限りでは、この広場にさっき船で見たような人たちのようなせわしない人はいなかった。仲間同士、恋人同士、夜なので少ないと思っていた家族連れも意外に多い。小さな子どもの手を引いて、ライトで昼間のごとく明るい通りを談笑しながら歩いていく親子を見て、少し懐かしい気分になった。
 何気なく視線を上げてみて驚いた。同時に人々の歓声と自分の声が重なる。
「うわぁー・・・・・・!」
 あれは、観覧車・・・なのか? いくつもの巨大な気球が、ゆっくりと回転しながら夜闇の空へ舞い上がってゆく。自ら白い光線を何本も放ち、見るものを圧倒させていた。気球は、どこまで上り続けるつもりなのか勢いを緩めることを知らない。
「カー君、あれ! あれ、ゼッタイ乗ろうね! ゼッタイ!!」
 興奮して、ホールケーキを飲み込んだばかりのカーバンクルの首を無理矢理グリンとひねってしまったらしい。カーバンクルはむせこんだが、アルルは気づかなかった。
 後ろで再び歓声がした。振り返ると、アトラクションで賑わう街並みのずいぶん向こうに、
 ・・・ドラゴンだ。

 遠めに見ても、ゴオゴオという燃焼音が聞こえてきそうな勢いで、燃え上がる山脈が浮き上がって見える。アルルが振り返った時、ドラゴンは山と山を大きくまたぐところだった。ドラゴンが夜空に炎を吐いた時にわかったが、ドラゴンがまたぐ山々はアトラクションだ。ファイヤーブレスに照らされて、燃える山々に幾重にも絡み合ったコースターレールが見えたのである。

「すっごい迫力・・・・・・」

 一体どういう仕掛けなんだろう。この遊園地で、それを考えるのは無駄なのか? なんて常識を無視した遊園地。普通の人ならこう感動するのだろうか。だが、アルルは違った。アルルの今の心境はこうだった。

 遊園地はこうでなくっちゃ面白くない!!

 眠気なんて遊園地への期待と興奮で元からない。明日からと言わず、今すぐアトラクションの利用チケットを買って乗ってこようか。アルルの足はすでにうずうずしている。アルルの後ろを、黒い人影が数体駆け抜けていった。

 

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こぼれ話(『創造主伝説』―――自分的世界の捏造者の思い込みを記した書、から)
【読みたい人だけ読みましょう】
 
注意書き:全然正規の魔導物語の設定に全く無いことを、さも真の設定のごとく書いています。
      これを、
真の設定だと思わないで下さい。それだけは、絶対にダメです。

■「カーバンクルガール」について。
 ・・・デザインは、サタン様の趣味だと思われます。・・・・・・・・・。して、お姉さんはももも通販の従業員?(笑)

■「ももも銀行」について。
 魔導世界全土に渡ってネットワークを張り巡らす「もももの会社(通称「ももも通販」)」は、商売ばかりでなく金融業務も手がけているらしいです。各地の要所(街や都市)に小さな銀行を経営して、お金を預かったり貸したりします。また、預かったお金は商人モンスターの威信にかけて滅多に盗まれたり失くしたりはしません。信用度も実用度も業界最高の組織です。
 ただし、利用するのは冒険者や魔導師など商人系モンスターのことをよく理解している人間にとどまります。一般人や国家、貴族たちには、やはりモンスター銀行など絶対信用できない組織でしかないようです(この辺が冒険者や魔導師が、一般人から変人扱いされる要因のひとつでもあるのですが、それはここではあんまり関係ありません)。

2005.9.2

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