魔導時空遊園物語   第1章 それぞれの旅立ち

5 旅の続き

 ――――――なんてことがあった翌朝、アルルはすでに荷造りを済まして旅立とうとしていた。サルーとシエラ、それからロスメルタ大魔導士が、セントレイス王国の城門まで送ってくれた。
「じゃあ、アルル。気をつけて」
「うん、サルーもがんばってね!」
 アルルに笑顔を返すのは、サルーだけじゃなかった。
「あんたの実力、なかなかのものだったわよ」と、シエラは言った。
「そうじゃよ、アルル・ナジャ。そなたの実力はまだまだ伸びる。こんな老いぼれの元よりも、世界を見て回りながら修行を積んだほうが、そなたのためじゃろう・・・」
 皺の奥から、柔らかな声でロスメルタ大魔導士が言った。
「ハイ!ボク、もっと自分に合った修行のしかた見つけることにします!無理なお願いしてすみませんでした」
 ぴょこん、とお辞儀をして、ロスメルタにもう一度謝った。
 アルルは、本日限りでロスメルタの弟子を辞める。三日ももっていない。というより、弟子とも認められてはいなかった。アルルがこの三日で学んだことは、「名前よりも実力のある魔導師の方が多い」ということ。裏を返せば、名のある魔導士には地位はあるけど実力はないという事実だった。
 そのことに三日で気づいたアルルに対して、ロスメルタは王族専属魔導士というのが、いかに魔導師界からかなり切り離された世界であること、本当の魔導師に会いたいなら名前を追うより実力を追わなければならないことを伝えた。自分で師匠と呼べる者を、自分で探すしかないのだと言った。
「でもさぁ、アルル。あんたこれからどっか行く当てあんの?」
と、シエラが言った。
「ないよ。でもとりあえず北を目指してみるつもり」
 冒険は4歳の頃からやってきた。旅はすでにアルルにとって散歩みたいなものになっていたのである。
「ふぅん。まぁ、ボケッとしてるあんたとその動物には向いてるかもね」
 シエラはチラッとアルルの肩の上で眠っているカーバンクルを見た。シエラから見れば、アルルもカーバンクルも変わらない生き物であるらしい。
「じゃあね、元気で」
「うん、シエラも。ロスメルタ様、短い間だったけどありがとうございました」
「立派な魔導師になりなよ」
 アルルが城門をくぐった先でなんとなく振り向くと、(シエラとロスメルタはすでに王城に帰ろうとしていたようだが、)サルーが駆け寄ってくるのが目に入った。
「どうしようか迷ったけど・・・やっぱり、君にだけ内緒で教えておこうと思って」
「?」
 サルーは、なんとなくアルルにも見覚えのある封筒を差し出した。表にうってある魔法のスタンプが特徴的だ。しかし―――しかし、そんなことがあり得るのだろうか
「これ・・・まさか!」
「そう、魔導学校の入学案内書!
 サルーの眼は昨夜以上にキラキラしていた。
「まさか・・・」と、アルルはオウムのように繰り返した。
「昨日の晩、一晩中考えたんだ。君が魔導学校の卒業生だってこと。僕も、両親の言葉を信じかけてた。魔導学校はこの世に存在しないんだって。でも、僕の目の前に実際に魔導学校の卒業生がいる。もしも、もしも本当に魔導学校があるんなら、一度は見てみたいって考えたんだ」
「入学できなくてもいいから、もう一度探してみようって思ったんだ。そしたら・・・」
 その先は聞くまでもなかった。
「・・・何て書いてあったの?」
「はは・・・参るよなぁ。12年前、僕が初めて野宿した日に届いた手紙と同じだよ。「君を待っているよ」ってさ」
「・・・・・・すごい・・・」
 アルルは、魔導学校での出来事をサルーに話したくてたまらない衝動に駆られた。しかし、それ以上に話してはいけないと思った。アルルが話そうと思い出したことは全て、サルー自身が体験しなければ何もわからないことばかりだった
「それで、・・・今夜、すぐ発とうと思う。なんとなく、君しか言える人がいなくてさ」
 ははは、とサルーは照れ隠しに笑った。
「先生には?」
「ロスメルタ先生には言わないし、もちろんシエラにも両親にも言わない」
「パーティの相手には?」
 サルーはたしか5日後に貴族たちが集まるダンスパーティに行かなければならない、って言っていた。
「いいよ。僕が帰らなければ、イヤでも父が気づくさ。もちろん失礼にあたらないように、旅先から相手の家には手紙くらい出す。それに・・・」
 サルーは大切そうに封筒をバッグにしまった。
「今、家の事情で旅の決意を蹴ってしまったら、二度とこの封書は届かないと思うんだ」
 アルルは、確かにそれはそうかも、と思った。魔導学校の校長は不思議な人だった。どこにいても生徒のことがわかるのだ。きっとあの人は、どこかでこのサルーのことも見ている。そんな気がした。
「・・・ってわけだから・・・、その。お互いがんばろう」
と、サルーは興奮気味にアルルに手を差し伸べた。
「うん!えーと、魔導学校は入学するのも卒業するのも・・・で、卒業してからも大変だけど・・・すっごく、すっごくいいことが勉強できるし楽しいから・・・絶対あきらめないで
 アルルはサルーの手を握りながら、今、自分がサルーに今言える全てのことを言った気がした。
「よろしく。つぎ会う時は君を『先輩』って呼べるように頑張るから」
「あはは!」
 アルルはサルーと一緒に笑った。
 サルーが再び別れを告げて去ってから、当てもない旅の途中でアルルは急に思い出した。そうだ、アルルの魔導幼稚園の同級生には今の彼のような青年もいた。おじいさんといってもいい年齢の人も。魔物もいた、妖精もいた。その中には、入学試験の旅は10年かかったという人もいた・・・。
 たぶん、彼にとってこの12年間ずっと入学試験の冒険が続いていたのだ。そうだ、サルーは12年も前にすでに入学試験を受けていて、今もなお受け続けているのだ。
「すっごいなぁ・・・」
 アルルも一流の魔導師になるのが夢である。サルーに負けていられない。アルルは彼より12年も先輩なのである。彼と再び出会うまでに、立派な魔導師になっていたい、とアルルは思った。
 アルルはエストエンドのはずれの港で、北へ行く船を探した。もちろん一番安いやつを、である。

   

 大陸を横断するように旅を続けていたアルルは、珍しい召喚獣鉄道に一度乗ってみようと考え噂の汽車に乗った。大きなドラゴンだった。ゆっくりとした動きで汽車を引いている。アルルは車掌室で暇そうにしていた男に、あのドラゴンは何の種類か聞いてみた。
「ありはホワイトザウルスという種類のドラゴンだぃね」
と、車掌は北の大陸なまりの口調で言った。
「あんださん、召喚師サマかなんかかぃね?よぉ来るでよ、勉強とがって鉄道の見学に来るローブ連中」
「ねぇ、あのドラゴンを召喚した人は誰なの?」
「あ?そっだらコトも知ネか?有名なホリース・ネネとその一族だが。その筋じゃあドラゴンどがの大型魔獣の召喚がうまかっただとなぁ」
「あー・・・そんなんだったかなぁ?」
 アルルはうろ覚えだった。『現代魔法学』は、少し苦手だったのである。しかも、召喚学はアルルの専門とは直接関係がなかったので、試験科目でもなかった。てゆーか、そのネネとかいう人に召喚されたサーペント先生は、契約を勝手に解かれた上に魔界に帰れなくなったとか言ってなかったっけ?
「まぁ、今は引退してるけんどな。今はホリース様のおデっさんが各駅で召喚獣の世話をしてくれなさっどる。客に魔獣ですったもんだ起こさんよ充分安全確保されてくれっもんで・・・車掌は暇だでな」
「ふーん・・・お客さん、よく来るんだ」
「ああ、ぐるよぉ。数ヶ月前まで、ここは廃道寸前でホトンドほったらがしになっでだんだがなぁ。この鉄道の終点駅にテーマパークが出来たがなんだで、でこれが面白いって評判になっだで復活しだんだ。まっだく、なしてあんな人気ンねぇどごに誰が遊園地なご建てだんだが・・・もっど街中にできてくらぁ、いづでも行げんのに。ってじつぁ、あっしも今度娘と行ぐんだがぁな」
 車掌はたはっ、大きく前に出た出っ歯を開いて恥ずかしそうに笑った。
「ふーん、遊園地かぁ」
「ぐぅ?」
 カーバンクルが、『それっておいしい?』と聞いた。アルルはカーバンクルに「遊園地は食べれないよ」と、訂正した。でも、遊園地の中においしいお店はあるかもしれない。
 どうせ行く当てもないし、とアルルは思って、
「ねえ、おじさん。今これに乗ったらその遊園地、夜までに行ける?」
と、聞いた。
「ああ、夕方にはつくでよ。終点の『岩石地帯駅』まで行っだら、そっがら出でるももも急便に乗りゃいいが。520Gだで、まいどっ」
 車掌はすばやく切符を切って、アルルに手渡した。
 ちょうど、反対車線に『岩石地帯駅行き』のプレートを首から下げた別のホワイトドラゴンが、のっしのっしと駅に入ってきたところだった。

 

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こぼれ話(『創造主伝説』―――自分的世界の捏造者の思い込みを記した書、から)
【読みたい人だけ読みましょう】
 
注意書き:全然正規の魔導物語の設定に全く無いことを、さも真の設定のごとく書いています。
      これを、
真の設定だと思わないで下さい。それだけは、絶対にダメです。

■シェゾとアルルについて。
 だからシェゾ様×アルルさん派なんだってばっっ。サルーじゃないんだってばっ!何勝手に語り合ってんだよーっ!

■ロスメルタ、シエラについて。(補足)
 ホントはいい人なんですよ、この二人。頭もいいし。実際、国王に有益なことを研究できるだけの知識はあるわけですし、王室の礼儀とかもわきまえてます。仮に魔導の知識や実力がアルルやサルーの方が高くても、彼女や彼が王室直属の魔導師として役に立つかはまゆつば物です(ストレス溜まりそう)。彼女たちの魔導に関する知識がいくらアルル達よりも低くても、それが王室から求められる充分なレベルなのだから、彼女たちはこれ以上知識を高める必要もないだけであり、またそれが彼女たちに合ったスタイルなのです。アルルやサルーには合っていないスタイルが彼女たちには合っている、それだけのことです。
 まぁそういうわけで、アルルやサルーが彼女の元を去ったのは当然のことと言えるでしょう。アルルやサルーはまだまだ自分の実力を磨いていきたいという目的があるわけですし、潜在能力も申し分ない。その意味で、ロスメルタの元で共に腐ってゆくには惜しすぎる見習い魔導師です。一方、貴族令嬢としてそれなりの地位を築きたいと切実に願っているシエラには、ロスメルタほど理想に叶った人物はいないはず。価値観の違いというヤツですね。

■召喚獣と召喚師について。
 大して意味のない設定です。とりあえず、この魔導世界の召喚師たちはこんな形でも世界の人々に貢献しているのです。ただまぁ、召喚獣をこのように人間に使役されるだけの存在として扱う召喚師たちには、魔導界にも批判はあるようですが・・・・・・。
 召喚系の魔法は別に召喚師でなくても魔法がある程度扱えれば誰にでも出来る魔法の一種です。例えば、自分の欲しいものを手元に呼び出す魔法も初歩的な召喚術のひとつです。大掛かりなものになってくると、異空間に閉まっておいたものを一定の法則のもと呼び出したりすることもできます。シェゾが闇の剣を異空間から取り出す、あれです。
 ただし、この召喚する者や魔獣が異世界の生き物であったりすると、その召喚の難しさは格段に増します。その召喚術を専門的に扱うのが、魔導世界の召喚師たちです。かれらは初歩的な召喚術はもちろん、異世界の扉に魔力で働きかけてその扉を開くことが出来る特別な存在です。その先の異世界で異世界の住人と『契約』を交わし、魔導世界に呼び出すことができるのです。一般的には名もない魔物や下級の魔族、子どもの精霊などが呼び出されますが、腕の良い召喚師ともなれば魔王や幻獣を呼び出すことも可能であると言われています。時の女神を召喚する術も、魔導世界に存在すると召喚師の間では噂されていますが、本当のところは良くわかりません。
 まぁ、とりあえず魔力があれば肩書きがたとえ魔導師であれ、魔術師であれ手順さえ間違わなければ召喚術は扱える点で、召喚師が何をする専門なのかは危ういところではあります。魔導師であるシェゾが手順を踏んで召喚術を行使できるのもそのためですし、また召喚師でありながら魔導によく精通した者ももちろんいます。結局突き詰めれば本人が自分をどう認識するかの違いなんですね。

2005.7.12

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