子どものよう
嵐の夜に聞いたあの不思議な旋律が、またどこからか聞こえてきた―――――
再び聞こえてきた自分を喚ぶような歌声を自室で聞き流しながら、シェゾは嵐の夜より少し前のことを思い出していた。
それはまだ、彼の宿す氷の精霊 の凶悪さを知って間もない折。
その時もまた、腑に落ちない妙な感覚がよく記憶に残っていたからかもしれない。起きる気も無かったのに、無理矢理起こされた時のような理不尽な感覚が奇妙な喚び声の妖しさと相まって、その記憶を静かに呼び起こしていた。――――― ・・・喚んだか? 主よ・・・
覚えているのは、闇の剣のいぶかしむような無機質な
意思 ――――脳裏に直接響くモノであるだけに、忘れ去ることは容易でない。それは、屋敷に来て何度目かの夜のことだったと思う。・・・いや、昼間だったか? ・・・話の内容は忘れたが、セリアやレイドと何か話している最中だった。
セリアが自分の“病”について嘆いた時、シェゾは自分の奥底の“力”がにわかに沸き立つのを感じた。―――と、同時に聞こえてきたのが自分に干渉する“力”の気配――――『 “力” を 奪 え 』、と主張する何者かの意思。
・・・その時は、その闇からの声がかなり近かったこともあって、「剣」が自分に干渉した意思 かと考えたのだ。しかし剣は、即座にそれを否定した―――――我は、主に干渉する行為を決してしない――――
―――――それは、屋敷に来て初めて感じた“闇の力”による干渉だったと言えるかもしれない。
「・・・・・・この喚び声は、あの時の声と同じなのか・・・?」
シェゾは顔を上げて、どこから聞こえてくるかも定かではない旋律に、もう一度耳を傾けた。
言葉は聞こえてこない。だが、アイギスに言わせれば、それは意思を持つ唄のようであると言う・・・
そう、今も聞こえてくるこの声は、あの日に聴いた喚び声にも、――――嵐の夜に聞いた声にも、よく似ていると思う。「・・・・・・」
耳の奥で鳴るような音は、まだ続いている。2日前の――――嵐の夜よりも長い。
自分を誘い出すかのような不思議な旋律は、やはりより深くなったこの屋敷の闇の中から。声に誘われてやったワケではないが、ここ数日で妙に活発に動き始めた闇の力に興味もあった。
屋敷に戻った時の、霧のように漂っていた薄気味悪い白い気配。嵐の後処理理の追われる屋敷の連中は、いつもより慌しい一方で、穏やかでなかった。
緑を落とした庭園の木々も、笑みの無い屋敷の連中も(ひとりマイペースにケロケロしているのもいたが)、明らかにあるいはどことなく生気にかける。ただ、嵐が通り抜けた後だから。・・・普通なら、そう片付けてしまえそうなことでもあった。
だが、シェゾは気づいてもいた。
いつも通りに時が流れている屋敷という空間の影で、音もなく何か不気味な気配が漂い始めているような予感。
それはアイギスに言われるまでも無く、すでにシェゾも感じていたことだった。
■ ■ ■
嵐の後のゴタゴタが続いたせいか、屋敷が完全な静寂に包まれたのは深夜になってからだった。
屋敷が静まり返るのを待っていたように、窓から漆黒の鳥が舞い降りてきた。
さすがは魔族というべきか――――アイギスは、シェゾよりもハッキリと“それ”に気づいていたらしい。
『・・・・・・あの夜の“声”が聞こえていますね。やはり、貴方を喚んでいるようですが』
アイギスは部屋に降り立つと同時にそう言った。すでに人の姿に戻っている―――――
まったく、この女魔族はハッキリしないことをキッパリと言ってくれる。
「聞こえるのか」
と、シェゾはやや冷ややかに尋ねた。
『・・・聞こえますね。尤も「声」と言うより、やはり唄 に近いモノがありますが。いや、・・・何かの呪文のような』
「この唄も、召喚術の一種だということだろう。唄もまた言葉の魔力を増幅させる――――・・・そういう意味で、呪文も唄も似たようなモンだからな」
意思は源、言葉は力――――その組み合わせによって完成する唄は、セイレーンの歌声を挙げるまでもなく様々な“力”を喚び起す――――呪文はその典型に過ぎない。多くの呪文が言葉遊びのような唄になっているのは、珍しい形じゃないのだ。
シェゾは言った。
「屋敷にいると、時々聞こえてくるんだよ。尤も、あの嵐を喚び起こした時ほど、強引な呪文 ではないんだが」
『へぇ?』 アイギスは、珍しく興味を示したようだった。
今夜もまた声は静かなものだった。あの嵐の夜の喚び声のように、強引な荒々しさはない。繊細で、自分を誘うように、力を掠めてゆくだけのもの――――不思議な旋律だ。
『声に、応えたことはあるんですか?』
と、アイギスが尋ねた。
「いや、ない。いつも無視している。・・・強制力はそれほどではないんだ、不思議なことに」
そう――――声はシェゾを不思議な旋律で誘うだけで、強引に力で対象を呪縛しようという意思は感じなかった。
それは――――対象の自由を魔力で縛り、半ば強制的に召喚するのが普通である『召喚技術』にしては、珍しいと言うか―――妙ですらある。強制力のない召喚術など、シェゾに言わせればノブのないドアと同じ――――要するに何の役にも立たないモノのひとつである。
アイギスもまた、同じようにそれには疑問だったようだ。
『んー・・・たしかに、嵐を引き起こせるほどの「力」を持つハズの召喚器にしては、この声の脆弱性は妙ですね』
「やはり、お前もそう思うか」
『ええ、まぁ・・・。なんとも――――妙な、物質・・・』
声はしばらく続いていたが、やがて干渉するのを諦めたようにスゥ、と遠のいていった。
『消えましたね』
と、アイギスは窓を振り返りつつ言った。『・・・あの嵐のように、また別の力を喚ぶつもりでしょうか』
「いや・・・どうかな。今度の喚び声は、明らかにオレ個人の力に干渉していた。そのオレが声に応えなかったワケだから、何も起きないと思うが・・・」
シェゾの意見にアイギスも頷いた。
『・・・たしかにあの夜のように、突然声が途切れた感じではありませんでしたね。対象に拒まれた力が、遠のいてゆく感じで・・・それ以上の干渉は感じられない』
「そういうことだ、・・・さて」
シェゾは、傍らの上着を取った。今夜は、珍しくシェゾは少しばかり暗黒器探しにノリ気であった。
連日の暗黒器の活発な動きに興味があったのもそうだし、なにより明確に自分を召喚しようとする闇の力に、少しばかり気がかりがあったこともそうかもしれない。だから、シェゾとしては珍しく、このまま暗黒器の調査に乗り出してやっても良かったのだが、そういう日に限ってアイギスは中々“やろうか”という気を見せなかった。
シェゾが部屋を出ようとしても、アイギスは音が消えていった方向(定かじゃないのだが)をジッと見つめ、しばらく黙ったままだった。
「・・・? どうかしたのか」
アイギスは、首を傾げつつシェゾを振り返った。
『いえね・・・なんだか最近、ずいぶん闇の力がよく活動してるなぁ、と思って』
「・・・それがどうした? それだけ暗黒器の活動が、活発になっているということだろう。結構なことじゃねぇか、相手の動きが大きいほど、気配は探りやすいんだからな」
シェゾは単純にそう言った。それは間違っていない――――が、アイギスはシェゾとは少し別の意味で暗黒器の声を聞いていたようだった。『ええ、でも・・・暗黒器という“物質”が、これだけ様々に複雑な活動をすることって、それほどあるものでしょうか』
「? どういうことだ?」
シェゾは、その意外な視点に少々面食らって聞き返した。
―――――“物質”・・・? 確かに暗黒器は、物質だが。
―――――物質には、人間のような複雑な意思や感情は無い――――すべての物質 がそうだが、物質はそれだけに無機質で単純に強大な“力”を発揮するもの――――感情に左右されないその安定した“力”が物質の強みである。
それが、どうだとコイツは言う・・・?
アイギスは言った。
『だって複雑ですよ、今回の召喚器の動き・・・というか、活動は。以前は微々たる力で闇の力を収集していたかと思えば、突然物質にはありえないほどの荒々しい力で嵐を呼び起こしてみたり・・・、そうかと思えば今夜のこの静かな旋律。まるで、壊れたオルゴールだとも思いましたが・・・それにしたって、あの嵐の不安定さは異常でした』
アイギスの言葉に、どこか自分の思考と符合するものを感じ、シェゾは瞬間、時を遡って考えた―――(そういえば――――あの嵐は――――?)
嵐の叩きつける雨の冷たさに、吹き付ける風の轟音に――――ある種の“人間的な”怒りを、シェゾは感じ取っていた――――たしかに―――覚えている――――・・・
強い怒りで祭りの活気を打ち壊そうとするかのように荒れ狂い続ける風、雨、雷轟。
暗く、冷たく、感情が一切ないただの“モノ言う物質”に過ぎない暗黒器が、このような怒りと絶望を訴えるような雨風を喚ぶだろうか―――――・・・、と。アイギスはさらに言った。
『考えてみればおかしな話なんですよね。・・・聞いていると思いますが、私はシェゾさんがここに来る以前から、約1ヵ月に渡ってこの屋敷で闇の調査をしているんですよ。それこそ毎夜毎夜、屋敷へ忍び込んでは闇の力の活動を探っていました。その間、召喚器の活動に全く変化は無かったのに・・・なぜ今になって、こんな急激な変化をしたのか。それがどうも気になって・・・』「・・・以前はずっと、あの黒インキを細く流し込んだような気配しかなかったってコトか?」
『ええ。・・・まぁ、それこそが物質を相手にする時に厄介なところなんで、当然と言えば当然ですが、なぁーーーーーーーんにも変化なし。こっちが誘導をしかけようが、囮を使おうが、活動や力の気配に全く変化がないんです。仕方が無いから、もうこの黒インキの気配を無理にでも辿るか、屋敷の調度品をしらみつぶしに調べるしかないってコトで、・・・もうウンザリしてたくらいなんですよ?』
「・・・・・・」
確かに。相手が人間や魔物なら、――――こっちの出方次第で相手も動きを見せてくる。だからこそ厄介なことにもなりやすい半面、やりやすい面もある・・・が、物質が相手ではそうは行かない。圧せど引けども変化が無いので、厄介な時とやり易い時が両極端なのだ。呼んでも返事のない失くしモノは、部屋を逆さにしてでも探すしかない。魔族の言うことは良くわかる・・・
この魔族も、それなりにいろいろな努力をしていたのか。ワケも無く、魔王に言われたから、それだけの理由で屋敷のガラクタをしらみつぶしに調べていたわけではなかったのだ。シェゾはそれを初めて知った。
『あの嵐の夜の声を聞いたときは、あまり深く考えませんでしたが・・・今考えると、この変化は相当ヘンな感じがするんですよ』
「・・・・・・・・・」
シェゾは、思わず上着を持った手を下ろして考えた。
これは・・・もうそろそろ結論を出してもいいんじゃないだろうか。脳裏にチラつくエメラルドグリーンの含み笑いも同時に思い出しそうでイヤだが、どうもそこにしか落ち着かないような展開になってきたと思う。
『ついでに言えば、あの嵐には、もうひとつ妙に気になるところがありますね』
「・・・? 何がだ?」
頭を抱えるシェゾの傍らで、アイギスは、またも腑に落ちないような表情をした。
『あれが、召喚器によって喚ばれたものだとすれば、ちょっと・・・ヘンだな、と思う部分もあって。・・・シェゾさんは、あの嵐の力の源をたどってみました?』
アイギスは、逆にシェゾに問うた。
「いや、それどころじゃなくてな。だが暗黒器の力なら、・・・この屋敷からに決まってるんじゃないか?」
そう言いながらも、――――そうではないのではないかと思いながら、シェゾはアイギスの答えを待った。
『それが、違うんですよねえ』
アイギスは金色のマスクを押さえて、さらに首をかしげるような仕草をした。
「・・・・・・。どこだったんだ」
『たぶん、あの“街”が力の発生源ですよ』
「・・・街?」
『連夜のように微かな気配ではなく、ずいぶん強引な闇の力でしたから、場所はすぐに割れました。ずいぶん荒々しい召喚術だったので、初めは貴方が喚んだのではないかとも考えましたが・・・』
アイギスは微妙にマヌケだが、洞察力は確かだ。
・・・・・・。
『そうでないのであれば、嵐を呼んだのは間違いなく召喚器。・・・たしかにあの時、召喚器は屋敷にではなく「街」にあったと思いますね』
「ああ、オマエがそう言うんならそうなんだろうよ」―――――いよいよ、矛盾が多くなってきたな。
と、シェゾは改めて感じた。
シェゾ自身も、あの嵐には違和感を感じてなかったわけではない。アイギスには知る由もないが――――シェゾ自身も、あの雷雨に物質らしからぬ荒々しさがあったと断ずるに異論はないのだ。
さらに言うなら、凄まじい豪雨、街にいるはずの無かった少年、欠けた眼鏡をいつもとは別の場所にかけた魔導師、嵐の中で鈴の音と共に走り去った黒猫、―――――あの嵐の夜はアイギスが言う以上に、妙なことがありすぎていた。
こういう場合、たいてい何か根本的に大きな勘違いをしている時が多い。
・・・根元で何か「こうだ」と思い込んでいる部分があるから、そこから様々なズレが生じている―――――「・・・お前は、どう見る?」
シェゾは、見えるモノなら、アイギスのマスクの奥の瞳を見るように魔族を見据えた。
アイギスは、軽く首を傾げて曖昧に言った。『どうと言われても・・・おかしな機器だなぁ、と思うくらいで。・・・だってそうでしょう、屋敷に来て数日は東の巨塔から闇を集める気配がして、数日後には場所を変え、それを辿ると妙な地下室が見つかるし。そして、あの夜は街の中で大暴走。暗黒器が、どんどん屋敷から遠のいてますよ。オマケに、力の発揮具合もずいぶん気まぐれですよね』
「・・・・・・だが、今夜もこの屋敷の中の闇は濃い」
『ええ、そうですね。いつの間にかまた屋敷に戻っている。そして、以前よりずいぶん強い闇ですよ』
「ああ、そうだな」
シェゾは、無機質に相槌を打った。
アイギスもまた、あまり感情の無い声で淡々と言葉を口にする―――――そこに、シェゾにとって愉快ですらあるヒントが、様々な形で隠れているとは思えない口調だ。『しかし探すたびに場所を変えるとは、暗黒器はまるで気まぐれな子どものよう。いつもは、おとなしく闇に紛れて隠れるように力を収集していたかと思えば、とたんに癇癪を起こしてすさまじい闇を喚んでみたり。暗黒器は、普通、“主”を見つけるまでは明確な意思を持って行動するものではないと聞いていますが・・・この暗黒器は、まるで祭りを台無しにするために街まで出向き、嵐を呼んだようですらある』
「・・・・・・そうだな」
と、シェゾは短く言った。
・・・つい先月に活動を始めたという召喚器。自分たちは、ただ魔王に言われるまま、アルベルの収集物の中にそれが紛れていると仮定して、ここ数日活動してきたわけだが。
そこが、すでに根本的なズレだったのだろう。「・・・・・・・・・」
・・・“暗黒器はまるで子どものよう”、か。相変わらず、魔族は言い得て
奇妙 なことを言ってくれる。女魔族の言い方は、例えば、暗黒器が意思を持つ子どもならば、全て辻褄が合うと言っているようなものではないか。シェゾはついに、諦めにも似た腹を据えたつもりで、ゆっくりと言った。
「・・・もう、あの嵐は暗黒器が喚んだものだ、と考えない方がいいのかもしれないな」
『? どういうことです』
闇の剣は、確かに嵐は間違いなく“同士の力だ”と断言した。そういう意味で、確かに嵐は暗黒器の力によって喚ばれたものには違いないんだろう。ただ・・・
「少なくともオレは、あの嵐は暗黒器の力
だけ で召喚されたものじゃない、と考えている」『・・・・・・?』
「それこそ、カンでしかないがな。だが、お前も感じたんだろ。確かに、あの嵐の気配は妙だった。“物言う物質”に過ぎない暗黒器が喚び起こした力にしてはあまりにも――――こう、荒っぽいというか――――」
シェゾは記憶の片隅を探りながら、適切な表現を思考した。
「何か、こう“街”か、・・・あるいはお前が言ったように“祭り”そのモノに対する怒りか反発だかが暴走した力と考えた方が、・・・納得がいく」
『・・・・・・・・・。・・・つまりあの嵐は、“意思ある者”が喚んだと考えた方が自然だと・・・?』
さっきまで、まるでわからないと言う顔をしていたわりに、即座に正確な結論に結び付けられるあたり、アイギスもどこかでそれを推測していたのではないかという気がした。
「そういうことだろ」
シェゾは端的にそう答えた。
『待ってください、それだとシェゾさんが屋敷 へ来る以前の、召喚器の活動はどう説明するんです。私が調べた限りでは、屋敷の暗黒器は間違いなくただの“物質”。それも、シェゾさんの持つ闇の剣のように主も無く目覚めてもいないと考えた方が自然なくらい、こちらの干渉に無関心だったんですよ』「それはあくまで、オレがここに来るまでの話だろ」
シェゾは、アイギスの尤もらしい反論をスッパリと切り捨てた。「・・・おそらく、何かキッカケがあったんだ。暗黒器に何者かの意思が触れたか・・・あるいは、利用できる意思に目覚めさせられたか・・・少なくとも、数日前に暗黒器を意図的に利用できるようになったヤツが、この屋敷にいるんだ。そうして、召喚器の色んな力を試してるんだろう・・・・・・たぶん、周りの色々な力を利用しながらな」
『確かに――――確かに、それは尤もですが・・・』
とはいえアイギス自身も、それにはあまり確信を持ちたくなかったようだ。マスク越しにもわかるくらい、眉を寄せて嫌そうに顔をゆがめている。
それは、古代の機器が人の意思に関わると、大概面倒なことになると経験的に知っていたからなのかもしれない。
「問題は、その数日前にいったい何が起こったかだが―――――」
言った瞬間、シェゾは自分が言うまでも無いことを口にしていたことに気づいて、言うのをやめた。
数日前―――――つまり、暗黒器が変化を起こす丁度その頃、屋敷に暗黒器とはまた別の『大きな闇の力』が自ら足を踏み入れたんじゃないか。女魔族はつい寸刻前、こう言った―――――シェゾさんが屋敷 へ来る以前の召喚器の活動は、間違いなくただの物質だったんですよ――――――
そういえば、彼女はこうも言っていた―――――力と力の出会いは、時に予想しない力を喚び起こす―――――その言葉を同時に思い出した時、シェゾはまたある種のいらぬ直感をひらめかせてしまっていた。
「・・・なるほどな」
見ればシェゾはアイギス以上に表情を歪めていた。
アイギスには、それがかなり妙な表情に見えたらしい。
『・・・? どうしたんです』
「なんとなくわかったんだよ、あの野郎がオレをここに寄越した理由がな」
と、シェゾは自分を嘲笑うかのように吐き捨てた。
『?』――――たぶん。
たぶん、
アレ は初めからこの展開を狙っていたのではないだろうか。
アイギスが何をやっても無反応の相手も、自分が相手なら何らかの干渉をしてくることを予想したからこそ、アレ は熱心に自分をここに派遣しようと追い立てたのだとしたら。
自分が暗黒器に興味を示す示さないに関わらず、とにかくアイギスではニッチもサッチもいかない状況を打開すべく、自分をコマとして この屋敷に投入したと考えれば―――――――――――(また、利用しやがって――――)ムカつくことこの上ないが、多分そういうことだ―――――
「ふん・・・! 相変わらず性根の腐った――――腹の立つ―――――闇の魔導師を、何だと―――ハゲ野郎――――」
シェゾの半分以上言葉になってない罵倒を、アイギスは無視したらしい。
『でも、召喚器を利用している者がいるとしても、されている者がいるにしても――――それはあくまでどれも憶測の域を出ない推論に過ぎませんよね』
その冷静な言葉に、シェゾはある程度平静さを取り戻し、もう一度上着を持つ手を上げた。すばやく羽織り、怒りを抑え――――今夜の裏仕事は少し長引くかもしれない―――と冷静に考える。しかし――――
「まぁ・・・・・・「推論」に過ぎないそれを「確信」に変えるのが、次のオレたちの仕事だと・・・」
と、言った瞬間、「あの
魔王 は言いたいんだろうよ」あのヤロウは面倒なことを全て他人任せにしやがるからな。
やはりあの緑の毛色を思い出し、やはり勢い良く吐き捨てていた。