Center


 リトルエピソード


 戦いの最中に剣を抜くのが、随分久しぶりのような感じがする。

 ほんの数日だったはずだが、基礎鍛錬を怠ったことによる身体のなまりがすでに現れていた。

 シェゾは、次々と現れる塔のアンデットモンスターたちとの戦いの中、戦闘の感覚を思い出しつつ、召喚した闇の剣で敵を切り刻みながら、ほぼ行き慣れた迷宮形式のステージを次々とクリアしていった。

 最終ステージで、ラスト=ボスとして配置されていたのは、なぜか巨大なぷよぷよだった。その体格は、ボスフロアの天井まで届きそうな巨大なぷよだ。対処法を知らなければ、殴ろうが蹴ろうがそのぷよぷよした身体でダメージを吸収してしまうし、並みの炎や雷ではホトンドダメージを与えることができない魔物『びっぐぷよ』だが、都合のいい呪文というのは世の中探せば結構あるもので。
 シェゾは、(面倒臭かったので)同色のぷよぷよを3匹ほど召喚して、後の始末は女神に任せた(コラ)。シェゾは、消え去ったぷよの向こうに現れた塔の最上階の扉を開く。
 奥の部屋で不機嫌極まりない顔でシェゾを迎えたのは、自称魔界の帝王サタンであった。

『・・・見張りを冥界から召喚しなおすのも大変なんだが』

「抜かせ、「面倒だ」の間違いだろ」
 サタンに劣らず不機嫌な態度で、シェゾは部屋のソファに掛けてふんぞり返った。その勢いで、ソファに(なぜか)散らばっていた青い羽毛のようなものが、キラキラと宙を舞う。
 例えばソレを、氷の粒ダイヤモンドダストのようだと言えば聞こえはいい。しかし、その舞い上がったダストをマトモに喰らったサタンは、先刻前より数段渋い顔で言った。
『・・・・・・オマエ、塔の下階をストレス発散のためのサバゲーステージか何かとカン違いしてるだろ・・・』
「似たようなモンだろうが。次は、もう少しマシなラスボスを用意しろ」
『・・・機嫌が悪いな、仕事が気に入らんのか? お前にピッタリの仕事だと思ったのだが』
「ふん」
 ふて腐れた表情のまま、シェゾはそっぽ向いた。
 魔王の部屋の中は、およそ「魔王の部屋」らしき様相ではなかった。中央に小奇麗なテーブルが据えられ、その上には当たり前のようにティーセットが置かれ、脇には魔王らしからぬ喰いかけの水ようかん、ぷちぷよまんじゅう、クッキーだののおやつの山。アタマに2本のタケノコさえ生えていなければ、翼を消した魔王の姿はどっかのイカれた田舎貴族の風体だった。これがシェゾの知るサタンの日常である。
 何だかんだと言いながら結構面倒見の良いサタンは、突然現れて挨拶も愛想もないシェゾにブツくさと文句を言いながらも、一応人間式にちゃーを淹れてやった。シェゾもまた、テーブルに置かれたちゃーを当たり前のように取り、またただ当然のように並んだ菓子に好きなモノに手をつけている。
 「地上」では非常識極まりなくても塔の中では当たり前の光景に、シェゾは呆れ返りながらも、何となくホッとしてもいた。
 そこは、闇の魔導師たる自分がシュークリームを喰っていても、それを特に意識しなくても良い場所だった。

 

『で、どうだ仕事は』
 サタンはソファに腰掛けるなり、サタンは何かコトのついでのように聞いてきた。アイスキャンデーを口に入れつつ、シェゾもまたやる気なく答えた。
「そんなことは、アイギスとか言うオマエの部下に聞くんだな」
 甘酸っぱいワインの香りと、舌が痺れるくらいの冷たさが心地よい。・・・夏はやっぱコレだよな、などとシェゾは無責任にも“暗黒器”と全く関係ないことを考えていた。
『なんだ、仕事の経過報告に来たんじゃないのか。召喚器について、面白い話が聞けるかとか思ったのに』
「あいにくだったな。そっちについては、全くもってなんにもわかってない」
・・・・・・。まぁ、オマエみたいな面倒臭がりが、わざわざ土産話を持ってここまで来るハズないわな・・・』
 そう言って、魔王は自らもメロンソーダを下品にすすった。たぶん、この魔王もシェゾの話を大して期待していなかったに違いない。自分もそうだが、この魔王も多分、今興味あるのは目の前の菓子と酒の類で、“暗黒器”のことなど五の次くらいにしか考えていないのだろう。
 “暗黒器”の話以外に、大して話題にするほどの話題を持ち合わせていないシェゾとサタンは、ひんやりと冷房の効いた部屋の中で、冷たい菓子と飲み物を堪能ながら、しばらくだらけて過ごした。「地上」で言う『魔王』と『闇の魔導師』が聞いて呆れる、とは正にこのことであろう・・・。

「・・・そうだ」
『うんにゃ?』
 すっかりだらけ切ったシェゾのぼやきに、サタンはそれ以上のふやけワカメっぷりで答えた。
 ソファに寝もたれながら、シェゾは、今は酷く遠いところにいるような気がする少年を思い出そうとしていた。
 飴玉のような瞳と、白い“力”を持つ少し生意気なガキ。嵐の夜に、闇の中でひとり蹲っていたことだけを良く覚えている。不思議なことに、目を閉じても彼の表情をハッキリと思い出すことが出来なかった。真剣に思い出そうとすれば記憶も蘇るのだろうが、残念なことに今のシェゾには、それをしようとするだけの気力が大いに欠けていた。まさに夏休みに入った途端夏バテに伏せるダメ人間の如し。夏の宿題をしなければならないことがわかっていても、真剣にしようとする気力が無い。
 シェゾは開ける気の無い目を閉じたまま、彼が好きだと言っていた絵本の名前を呟いた。
 ちなみにサタンは基本的に地獄耳で、シェゾがふと口にした言葉でもすぐに聞き取ったらしい。
『氷の女王? 聞いたことがあるな、・・・おとぎ話か』
「・・・。キサマが知っているとは意外だな」
『いや、よくは知らん。「地上」で名を聞いたことがあるだけだ。どんな話なんだ?』
 サタンはメロンソーダではなく、今度はシェゾの方を見て聞いた。シェゾの視線は、天井を向いたままではあったが。
「・・・氷の力を持つ魔女が人の心に触れて消える話だ」
『・・・・・・。もうちょっと詳しく説明できんのか。20字以内で答えろとかいう、どっかの語学の問題じゃないんだから』
 魔導世界に長く身を置くだけあるようで、並みの魔族よりはサタンは人間についての知識を多く持ち合わせているようだが、いかんせん所詮は魔族なのだろう。人が当たり前のようにわかることでも、よくわかっていない、理解できていないところも多いに違いない。そして、わからぬところの多い人間は、全知全能を自称する魔界の帝王にとって大きな興味の対象らしく、人にしてみれば一見くだらないことでも魔王が非常な興味を示すことは多かった。人の間で流行っている“ぷよぷよ”や“なぞぷよ”にハマって大騒ぎを起こすことも珍しくない。
 騒ぎを起こすこと自体は迷惑極まりないことではあるが、それもそれだけサタンが人に興味を持っている証拠だと考えれば、シェゾもそれほど悪い気はしなかった(もちろん魔王の起こした騒ぎに自分が巻き込まれた挙句、大損をさせられた場合は、容赦なく制裁を下すことにはしているが・・・)。

 この時も、サタンが予想以上に話に興味を示したので、暇つぶしも兼ねて話をしてやることにした。天井を見上げた姿勢のまま、シェゾは半ば独り言のように話し始めていた。

「『氷の女王』は・・・お前の言う「地上」で有名な話のひとつだ。結末や展開には地域ごとに違うようだが、有名なのは女王が勇者に炎の剣で倒される話で・・・」

 サタンは、静かにシェゾの話を聞いていた。

 特に、勇者が炎の魔法を使って女王を倒す有名なシーンには、ジッと視線を動かさず、赤い眼を真剣にシェゾに向け続けていた。何かを考え込むように、ジッと、だ。
 シェゾは、そのような魔王の様子に少し気味悪くも感じたが、それと同時に、その眼はシェゾに屋敷で聞いた『氷の女王』のもうひとつの話も詳しく聞かせてやろうかという気を起こさせていた。

 ―――人と変わらぬ姿を持ちながら、人と異なる知識と力を持つ魔王。

 ―――「魔女」が「勇者」に倒されるという人にとっては在りきたりな話にも、ずいぶん真剣に耳を傾ける。

 ―――ならば『氷の女王』に、もうひとつの話が存在すると知ったら、魔王はどのような表情をするのだろう?

 ―――人との交流を望みながら、“力”を持つ故に人を拒み消えていった孤独な魔女の話を聞いた時、「人間好き」の彼は何を感じ取るのだろう?

 そんなことを無意識のうちに考えながら、シェゾはいつの間にかもうひとつの『氷の女王』の話を、魔王に語り始めていた。

 

 シェゾは、自分では気付いていないが、かなり子どもっぽいところがあった。シェゾは、いつもは自分がどれほど重大な話を向けたとしても、マトモに聞く耳を持たない魔王が、珍しく自分の話に興味を示したことに、浮かれてもいた。

 ―――――いつも頑なに無表情を決め込むこの闇の魔導師が、その肩書きを忘れた子どものように『氷の女王』の話を語る。リズミカルに動く口元、好奇心に揺れる瞳、話に合わせて自然に変化する表情、その全てが彼が闇の魔導師である前に、ひとりの人間であることを物語っていた。
 サタンはその珍しいシェゾを前に、非常に巧妙な表情を作って、少しだけ笑った。
「何が、おかしい」
 ハッとしたように彼の目が、急にくぐもった色に変化した。魔族にはない、その瞳の変化さえも今の魔王には面白い。
『いや、大した意味は無い。無愛想で話嫌いのオマエが、私相手によくしゃべるものだから』
「・・・・・・なんだと?」
『それが、少し嬉しかったのだ』
 サタンは基本的に口からデマカセにモノを言う。それを知っているシェゾは、また魔王に馬鹿にされたとでも思ったのだろう。一気に機嫌を損ねて、それ以上何もしゃべってやるもんかとでも言うように、口をへの字に曲げて完全に押し黙ってしまった。
 無言で癇癪をおこす気こそないらしいものの、・・・絶対にカンカンに怒っている。
 サタンは悪いと思いながらも、腹を抱えて笑いたくてたまらなくなっていた。・・・もちろん、そんなことをしたら直後にはボロ雑巾のようにされてしまうことが目に見えている。だから、やらない。それがわかっていても、わかっているからこそ余計に笑えてくるのだから、“ツボにハマる”とは恐ろしいことだ。
 ―――――ホラ、そんなところが本当に子どもだ。お前がまだ、ただ純粋に深い闇を持つ所以だな。
 ―――――よくそんな不安定で危うい力を、長く保ち続けていられるよ―――――
 サタンは、心ではないどこか記憶に近い部分でそんなことを感じながら、言葉では全く別のことを言っていた。
『そんなに拗ねるな。機嫌を直せ、お前の話に興味があったのも本当なんだ。・・・なにせ』
 最後に、サタンは話に満足したように頷いた後、お返しとばかりに言った。
『その話は、魔族の間でも有名なんだからな』
「何?」
 永遠にむくれ面を決め込んだようにすら見えたシェゾの決意は、アッサリと崩れた。
 サタンは最後の笑いをこらえて、今度こそサラリと言った。
『驚くことではない。お前が言うように、やはり人間の作る“おとぎ話”には、魔界の者がよく出てくるんだな。お前の言う「氷の女王」は、我々の世界では「セルシウス」という――――』
「・・・?」
『セルシウスは氷の力を糧に生きる魔族だ。彼女たちの持つ力は強大で、人間界ならその力だけで氷の城くらいは容易に作れるだろうな。ただ、その力を砕く力を持つ存在には、基本的に近づこうとはしないし、・・・気の強い者なら自ら排除しようともする。お前の言う「氷の女王」に、よく似ているだろ』
 サタンはすでに、さっきのようなシェゾをからかう態度は全て封印しきっていた。言葉、表情、仕草の全てが、いつもの魔界の帝王のごとき淡白で心の存在を感じさせないモノに戻っている。この変わり身の早さこそが、彼の魔王たる所以かもしれない。
『私は、セルシウスのひとりがずいぶん昔に、地上界に降りた時の話を知っている。お前の話と、途中までがよく似ていると思ったのだ。・・・そうだな、私の書庫にも絵本があったはずだ。ちょっと待ってろ、持ってこさせる・・・』
 サタンがそう言った途端、中空からパタリと一冊の絵本が落ちてきた。
 表紙は闇のように真っ黒で、厚さもほとんどない。絵本というより黒いノートといった感じのものだった。
『ご苦労さん』
 ふわりと気配を消したのは、ファントムだろうか。冥界でもかなりレベルの高い魔物である。
 現れてから気配が消えるまで、ほんの一瞬。この場所が、魔王の個室であることを思い出させる一瞬であった。気味が悪い・・・。
 サタンは絵本を手に取り、ケーキをほお張りながら絵本をシェゾに手渡した。空気のように軽い奇妙なノートではあったが、意外なことに普通の絵本と同じように内容が読める。「読める」というより、物語が頭の中に勝手に入ってくるような感じではあったが、シェゾにそれを気にするつもりはなかった。
『たしか、地上界の森の奥に居たセルシウスの元に、ひとりの人間が訪ねてくるんだ。この人間が、セルシウスにとって厄介なヤツで・・・結末は、お前の言っていた話と随分違ったはずだと思うが』
 そう魔王が言った途端、物語の結末をシェゾは理解した。

「・・・・・・女王は、旅人を殺すのか」

『セルシウスにとっては、そいつの「力」は自分の存在を消しかねない危険因子だからな』
と、サタンは言った。
『人間の力というものは時に魔族を恐れさせる。どんな呪いや魔術を放っても、そいつの力を砕けなかった。しかし、どれほど強い力を秘めていても所詮は人間。肉体は脆い』
 サタンの言葉には、感情は一切感じられない。それが、魔族であり魔王の本当の言葉だった。
『「秘める力を砕けぬならば、器を破壊すればよい」のだ。あっけなく旅人は死んだ。セルシウスは救われたのだ』
「・・・・・・・・・」
『しかし、この話は我々に問いかけている。人間とはいかなる存在なのか・・・時に魔族を凌ぐほどの力を持ちながら、それを使えるだけの器にない。一部の魔族に根強く残る考え方がある―――――あの力はあの器に持つべきものではない、優れた肉体を持つ我々にこそふさわしい力だ』
「・・・ふん、力を持たぬ者の僻みか」
 シェゾは、完全にノートに興味をなくし、ソファの裏へ放って捨てた。
 他人のことをとやかく言えぬことをしている彼だが、彼のそんな冷たい口調もまた、闇の魔導師その者の言葉だった。
『空の肉体を持つ者もいるのだ、魔族の中には。お前も気をつけろよ、お前のようなヤツが一番狙われやすい』
「中身の無い器に興味はない」
 シェゾは、サタンを真似るように無表情な口調に戻った。
『ふっ、そうだったな』
 魔王もまた、今度こそ魔王らしい口調であった。
 いくらこの場所に、「地上」にある菓子や食い物が並べられていようとも、ここは魔界に最も近い場所で、その部屋の主は他ならぬ魔界の帝王だった。
『・・・・・・ただ』
 しばらくして、魔王は、ふと思い出したように言った。

『セルシウスは、なぜ人の領域へ行ったのだろうな』

 サタンは、シェゾの放り出した黒いノートをいつの間にか再び手にしていた。
『行けば、この物語のように、人を拒み続けるしか生きる術はなくなり、それこそ「人の領域」を力づくで奪うことでしか自らの領域を得ることが出来ぬだろう。それはセルシウスにも、いや・・・セルシウス自身ならこそ、よくわかっていただろうに』
 独り言だったらしい。
 サタンは、シェゾが返事をしなくてもまるで気にしなかったのだろうが、シェゾはなんとなくそれに答えていた。

「―――――退屈だったんじゃないのか」

『誰がだ? セルシウスが、か?』
「いや。“勇者ひと”の方が、だ」
『・・・?』
 サタンが聞き流してくれそうになかったので、シェゾは仕方なく言葉を繋いだ。

「悪者が居るから勇者が現れるんじゃない。勇者が居るから、彼らが敵対者を望むから、悪者が作られる・・・あるいは喚ばれるのだとすれば」

 シェゾは、悪者に作り変えられた有名な『氷の女王』を思い出していた。誰かの言葉が蘇る。

――――どうして絵本は―――魔女とか―――を、―――悪い人って決めつけて
――――私が―――恐れているのは―――「噂」そのものですよ
――――街の人々にとっては、そうなんじゃないですか―――魔族なんて―――
 
 サタンは、またシェゾに興味深げな目を向けた。

『面白いことを言うのだな。セルシウスは、勇者に召喚されたのだというのか』

「そうは言っていない。ただ、魔女や魔族は、こうでなくてはならない・・・人に常に敵対する種族でなくてはならない――――それは“誰か”が、そう望んだ姿なんだ。それは勇者かもしれないし、勇者を祀り上げた人の意思そのものかもしれない・・・。あるいは、物語の“語り手”がそれに当たるのかもしれない。
 とにかく物語の“語り手”は、話の中の魔族がいくら魔界で暮らそうとしたところで、「氷の女王」がいくら森で暮らそうとしたところで、それを決して許さないのだろうな。・・・・・・放っておいたら、いずれ自分たちの敵になると恐怖させる一方で、そうなることを期待してもいる。物語の中では“語り手”の意思は強大で、抗うことは許されない。そういう意味で、「氷の女王」は“語り手”によって作られて・・・喚ばれた姿なんだ」
『・・・・・・』
 サタンは、ソファの上でまたメロンソーダを手にしていた。
 残り少なくなったエメラルドグリーンの液体に息を吹いて、ブクブクと泡を立てた。行儀が悪いことこの上ないが、サタンがいつか人間の子どもがそれをやるところを見て、『面白い』と呟いていたことをシェゾは何となく覚えていた。
「・・・・・・」
 シェゾは、ふと一瞬だけ、巨大な妄想にとりつかれた。世界がもし、“何者か”によって語られる“物語”であるとすれば、“語り手”は誰を悪者として召喚し、何者を勇者とするのだろう? 魔王や闇の魔導師を幾千年にも渡って存在させつつ、一体どんな物語を紡ごうとしているのか――――――?

『お前はどうだ?』

 泡立てに飽きたらしい魔王は、最後にシェゾにそう聞いた。

「何がだ」
 シェゾは、寸刻前の妄想をハッと忘れて聞き返していた。
 魔王は言った。

『お前は、いつか闇魔導師としてここを去る時、“彼らが喚ぶから”と言うのか』

「・・・・・・」

 シェゾは少し、舌打ちしたい気分になった。
 「氷の女王」の話と自分の立場を少なからず重ねていたことを、どうやら魔王に少し見抜かれすぎていたらしい。
 しかし、立場を重ねこそすれ、自分と「氷の女王」は全く別の存在であることも、シェゾはわかっているつもりだった。

「・・・・・・いや」
と、シェゾは短く言った。「言わないな」

「・・・いつかそういう時が来るとしても、オレは必ず自分の意思でここを去る」

『そうか』

 サタンもまた、短くそう言うだけだった。
 魔王はまた、メロンソーダをブクブクとやり始めた。

 エメラルドグリーンの液体は、もうホトンド残っていなかった。

 

back   return   next