屋敷へ


 フライン氏の屋敷前に到着したのは昼下がりのことだった。夏真っ盛り、しかもそろそろ日が中天に達するかという頃である。日差しがこれでもかというくらいに照りつけ、ニーニーと鳴くセミの声もどことなくバテ気味だ。
 いま一度、額の汗をぬぐったシェゾの脇で、サタンの部下を自称する俊鳥アイギスが、門柱のベルを少々ハデに鳴らし、ベルに備えられた魔導機器を通して中の使用人と挨拶を交わしていた。
『こんにちは、いつもお世話になっています。デイビス古美術商店のアイギスです。経営者オーナーサタン=デイビス様のお使いで、依頼されていた鑑定士を連れて参りました』
―――――「お待ちしておりました。ただいま門を開けに参りますので、少々お待ちください」
 ベルの相手は、丁寧な口調で親しげに対応していた。
『ここの屋敷の執事さんは、門を開けにくるまでしばらくかかります。ちょっと楽にしてていいですよ』
 金色のマスクの下から、アイギスは毅然と言った。
 シェゾはこれから、皇国内で有名な古美術品商人サタン=デイビスの紹介で、美術品の鑑定士としてフライン氏に雇われることになるらしい。このサタン=デイビスというのが、他でも無いブルヴァナ皇国でのサタンの“仮の姿”であり、アイギスはその代理として、本日フライン氏にシェゾを鑑定士として紹介する役目を担っている。
「しかしまぁ、マスクコレクターといい、離れ島の別荘といい・・・ヤツは一体、この世界にいくつの顔を持ってるんだ・・・」
 シェゾとしては、半ば暑さを紛らわすための独り言として呟いたのだが、アイギスは几帳面にそれに答えていた。
『さぁ? サタン様は、大陸中にその地域に応じた情報網を持ってますからね。私が知りうる限りでは、セントレイス王国ではたしか運送業者、ウェストエンドでは老舗旅館の女将でしたか・・・、セントフォードでは教会の牧師など。あと、最近は遊園地のオーナーもやってみたいとか言ってましたね・・・。あと、どっかで学校も経営しているらしいです。それぞれのところで我々のような魔族を働かせてくれるんですよ。裏では各地域の情報収集もやっていますが、仕事では人間の生活が色々学べて勉強になります』
 一連の言動からして、アイギスは魔族には珍しい真面目タイプらしい。シェゾに対しても、屋敷の使用人に対しても、ある程度マトモに対応している。見たところ、マトモでない点と言えば常時怪しげなマスクをとらずにいるところぐらいだ。
(・・・まぁ、魔族というのは大抵、人間には到底理解し難いこだわりを持っているものだからな)
 シェゾは職業柄(?)、魔族の思考回路を真面目に考えることほど無益なコトは無いと知っていた。最たるものはサタンであるが、目の前の(マトモそうに見える)アイギスでさえ、少なからずその傾向があることは間違いない。さっきも、門柱のベルを叩き壊しそうな勢いで鳴らそうとした際は、シェゾは思わず力づくで止めた。しかし、アイギスは言ったものである。
『いつも、これくらいの力で鳴らしてますよ』
「アホか! 壊れるに決まってるだろう!? 屋敷の連中に咎められたことは無いのか!」
『ありませんよ。だって、こーゆー真鍮製の呼び鈴って人間の力で簡単に壊せるものじゃないでしょう。さすがに疑われませんでした』
「いや、そういう問題じゃ・・・って、もういい。とにかく静かに鳴らせ。それで聞こえる」
 シェゾの頭に、先刻のあまりかみ合ってない会話が思い起こされたが、それはさっさと忘れたことにして、シェゾは柵越しに広がる屋敷と庭園に目を移していた。

 屋敷の敷地は広い庭園と、その奥に白を基調とした4階建ての洋館が構えられており、そこからくすんだ白壁に茶色の屋根を載せた棟が左右に翼を広げるように伸びていた。門外から見る限り、隅々まで手入れが行き届いた庭園と柔らかな日差しの奥にひっそりと覗く洋館の雰囲気は、とても暖かく優しい。・・・それらは例え“光の妖精”は集まっても、およそ“闇の力”が集まる場所としては似つかわしくないな、とシェゾは思った。
 何よりシェゾの気が引けたのは、その屋敷全体を穏やかに包む人肌のような暖かさで、シェゾは無意識の内にその空気の源を探っていた。屋敷の庭園は全て同一平面状に広がり、この地方の貴族が好む段差を多用して庭園全体を立体的に見せようとする手法が、全くといってよいほど使われていない。そのためか庭園は豪華ではないがとても広々とした空間に思える。
『病弱なご子息のためだそうです。屋敷の外へはホトンド出ることのできない彼のために、庭だけでも自由に歩きまわれるよう、フライン氏が気遣ってるんでしょう』
と、アイギスは言った。
「なるほど?」
 たしかに、道をふさぐ木々やツルなどはきちんと取り払われており、そう言えば園内には砂利や目立つ小石がひとつもない。世界から見ればちっぽけな庭園でも、そこでだけでも自由に子を遊ばせてやりたいという気持ちが設計主にはあったのだろうか。
(・・・家庭、というヤツか)
 シェゾはガラにもなく、スッと細めた目でにブランコを眺めた。
 「家族」や「家庭」――――そういうモノとは、シェゾは長く無縁である。もう、どのようなモノだったかさえまるで思い出せない自分という存在は、この屋敷へ侵入するに最も相応しくない存在なのかもしれない――――――。

 やがて、使用人らしい人が門を開けにきた。白いひげを生やした、いかにも“執事”と言えそうな風貌の老紳士で、ルルーの家の“じい”を細長くしたらこんなカンジだろうか、とシェゾはボーっとした頭で考えていた。
 老紳士は、アイギスとも面識があるらしく、アイギスも人間調で挨拶を交わしている。人間の世界での生活が長いためか、アイギスの対応は(少々おかしなところがあるとはいえ、)あの魔王よりもずっと人間らしかった。
「ではこちらが、サタン=デイビスさまの推薦する、鑑定士さまですか」
『ええ、少し融通がきこえてない・・・・・・ところもありますけども、古美術品、とくに魔導具の類の知識は抜群で、サタン様のおミス・・・付きです』
 表現の微妙な誤りは、地方のなまりだと言えば通じないことも無かった(?)。
「シェゾ・ウィグィィだ」
 シェゾの無愛想で短い挨拶にも、老執事は特に気を悪くした様子は無かった。むしろ、数十年来の旧友に出会ったかのような親しげな笑みを浮かべて、穏やかに頭を下げてくる。
「どうもどうも、鑑定士さま。こんな辺鄙な街の外れにまでご足労頂き、さぞお疲れでしょう。さ、どうぞ中へ。旦那さまもお待ちです」
「ああ・・・」

 ――――――鳥。

 シェゾは何となく、老執事の背に――――いや、それを含む屋敷全ての空間に、白色の羽を持つ鳥を連想した。
 それは、――――シェゾ自身は気づいていないが――――シェゾがこの屋敷に持った第一印象そのものだった。
 今にも飛び立ちそうな白い鳥。寒い冬の夜でも熱を逃がすことのない暖かな羽。その柔らかな羽の集合である翼を羽ばたかせると、白い鳥は、記憶の彼方に消え去った一組の幸せな家族の上に暖かな羽を一枚落としてゆく。
 「そこ」には自分が求めるべき“闇の気配”などまるでない。むしろ、もう二度と感じたくない光の渦中に足を踏み入れるようで、シェゾは無意識に屋敷への足を踏めずにいた。緑に反射する光のカーテンはゆらゆらと揺れ、それらは世界でただひとり自分だけを拒んでいるような気さえした。

『シェゾさん、行きますよ』
 アイギスの声にハッとなる。それが何かのキッカケだったかのように、屋敷が急にただの古びた洋館に見えた。木々は日光を機械的に反射しているだけで、むしろ夏の日差しがうっとおしそうにさえ見える。暑さにやられた頭の中に、急に現実的な色彩が視界に飛び込んできたようで、シェゾは一瞬混乱した。
(・・・ちっ、気分が悪いと思ったら・・・ッ)
 思わず手をやったバンダナは、いつの間にか汗が染みていた。シェゾは様々な理由で、夏の日差しの中に長時間突っ立っていることが得意ではない。むしろ大の苦手だった。加えて本日朝メシ抜きだ。どうやら相当無理していたらしい。
「どうかなさいましたか」
『日射病ですか。真夏にそんな黒服着てるから』
 アイギスはともかく、執事はさすがに心配そうだ。しかし、他人から気を使われることが日差し以上に苦手なシェゾは、眩暈を無理矢理無視した。唾を飲み込み、体勢を繕う。
「なんでもない、今行く」
 とにかく、屋敷へ入れば冷たい水の一杯でも出してもらえるだろう。そう思うと、足はごく自然に屋敷へ向いた。
 庭園の光は、誰も拒むことなく、自然に3人の影を屋敷に導き、相変わらずゆらゆらと緑の木々と共に揺れていた。

 

 

 シェゾとアイギスは、広々とした応接室に通された。タイミングよく中年のメイドが冷たいシリアルティーを運んで来、それを服してシェゾはようやく落ち着いた気分になった。
「こちらの部屋でお待ち下さい。旦那さまを呼んで参ります」
 屋敷の主人とやらが顔を見せるまでのしばらくの間、シェゾは室内にも見受けられる数点の古美術品に目を通して過ごした。
 しばらくして廊下に人の気配がし、間もなく先刻の老執事が扉を開ける。
「お待たせして申し訳ない、アイギスさま、鑑定士さま。・・・旦那さま、この度デイビス古美術商店からの紹介でお招きした鑑定士、シェゾ=ウィグィィさまと、アイギスさまでございます」
 老紳士に続いて部屋へ入ってきたのは、屋敷の主人だった。ソファで寛いでいたハズのアイギスが、素早く立ってフライン氏と挨拶を交わす。すばらしい瞬発力、さすが元暗殺者アサッシン
『アイギスです。いつもごびひき・・・・くださってありがとうございます』
「・・・シェゾ=ウィグィィ。世話になる・・・」
 アイギスの調子があまりに良いので、仕方なくシェゾも続いて挨拶した。本当なら、無言の礼だけで済ましたいくらいの気分だったのだが、人間でさえない魔族にここまでリードされていては、さすがに情けない気もする。シェゾは腐っても(一応)人間だった。
「アルベル=フラインです。どうぞ宜しく」
 フライン氏は、シェゾが想像していたよりも少々老いて見える壮齢の人物だった。ただ、老けて見えるのは頭髪が白いからで、身体はかなりがっしりとしており、その穏やかな笑みの奥には青年並みの快活さも兼ね備えていた。心身ともに健康そうで、とてもではないが病弱な息子を抱えるようには見えない。フライン氏は、コレクターにありがちの好奇心に満ちた目でシェゾとアイギス―――特にシェゾ―――を凝視した。
「まぁ、お掛けになって」
 フライン氏は(すでに寛いでいたアイギスはともかく)シェゾにソファを勧めた。執事に目配せして抱えていた資料を提示させるも、自ら資料をシェゾに手渡すなど何もかもを使用人にまかせきりにするようなワンマン主人ではないらしい。立ち振る舞いにも客人への対応も、珍重品好きなこの街の貴族にありがちの横暴な堅苦しさはなく、むしろ庶民的な素朴ささえあった。
「お話はデイビスさまの方から詳しく伺っております。なんでも鑑定士さまは、特に魔導器の鑑定に優れているそうで」
 シェゾは、オレは鑑定士じゃないとばかりに眉をひそめたが、主人がそれに気づく前にアイギスが話を受けた。
『はい、彼は魔導器・魔導具、また召喚器に関する知識に長けていまして、その扱いについてはかなり名の通ったベテランです。普段は世界各地を旅して、色々な遺跡や古書の研究を行っており、様々な伝承や伝説にも詳しいのですよ』
「ほう、それは嬉しい。私は貴重な美術品も好きだが、それにまつわる不思議な話や伝説にも興味がある。ぜひ食事の折にでも、面白い話を聞かせて頂きたいものだ」
「・・・・・・・・・」
 シェゾの心境などお構いナシに、アイギスとフライン氏は勝手に話を進めている。
「鑑定士さまに鑑定していただきたい品は、先月隣国の競売で仕入れた美術品30点あまりと、フレイア遺跡で手に入れた魔獣の化石など40点弱・・・etc、かなりの数に上りますが、1ヶ月の契約で完了しますでしょうか」
『シェゾさんの実力を持ってすれば、まず大丈夫ですけど、急かすことなんてありません。なんなら、2ヶ月でも3ヶ月でも引き止めたって構いませんよ。その方が、シェゾさんもやりやすい・・・・・でしょうし』
「本当ですか!」
 アイギスの勝手な言い分に、主人は目をキラキラさせて喜んでいる。上機嫌そのもので終始ニコニコ顔だ。シェゾは相変わらず無視されていた。それでいいような、悪いような。
「いやぁ、そういうことなら助かります。なにしろ、あの・・デイビス商店のご紹介だ。滅多に来て頂けるものではありませんからなぁ。この際だから、見て頂きたいものがたくさんあるのですよ」
『なんでしたら、屋敷に散らかりっぱなしの調度品の整理なんかもやらせてみてはいかがです? こう見えて、この人けっこう器用ですよ。壊れた古品なんかも、修復してもらえるかも』
(おいおい・・・)
「それはありがたいことですなぁ。いや、この町は珍品貴品は多くあれど、その珍品が汚れたり壊れたりした時に修復・再鑑定してくださる魔導師様や鑑定士様たちの組織が不足しがちで、困りどころなのですよ。デイビス古美術店様には、いつもお世話になっています」
 主人の様子からして、どうやらサタンが副業で経営しているデイビス古美術商というのは、皇国ではかなり名の通った商店らしい。・・・まぁ、あの魔王が仮の姿で起業するものは、大抵“大成功”か“大失敗”のどちらかではあるが。
 主人の美術品に関する多少の自慢話を聞いたところで、シェゾは気になることを聞くことにした。
「少し、聞きたいことがあるのだが」
 話の切り替えが唐突で気を悪くするかとも思ったが、フライン氏にそのような様子は無い。むしろ、何の話に関してもいまひとつ表情を変えなかったシェゾが質問してきたことは、フライン氏にとって嬉しいことだったのかもしれない。自然な笑みをシェゾに向けた。
「はい。何でしょう、鑑定士さま」
「あー・・・その“鑑定士サマ”っていうの、・・・やめろ。・・・シェゾでいい」
 シェゾの言葉にフライン氏は惑ったようだが、アイギスが意味深にニコリとした。
『“シェゾさん”で、いいと思いますよ』
 とりあえず、本来“鑑定士”ではないシェゾにとって、“鑑定士”と呼ばれなければなんでもよかった。
「そうですか。では、改めて・・・シェゾさん、何か気になることでも?」
 シェゾは一息置いて、努めて冷静に聞いた。
「屋敷にはずいぶんと、美術品が多いようだが・・・」
 シェゾが一言そういっただけで、アルベル氏は急に胸を張って話し始めた。
「ええ、この屋敷の品の多さは私の自慢のひとつです。この屋敷、中央の棟、左右に西棟・東棟の各部屋・廊下・ホールには、私が30年間で集めた数々の品を並べ、飾りきれぬモノは中庭に専用の塔を作りまして、その中にも様々な品を納めております。まぁ、あの中に盗まれて困るものは無いはずですが・・・・・・後で見てみますか」
「塔・・・? 中の美術品の数はどのくらいになる」
「そうですねぇ、宝石や装飾品など、割と細々したものをまとめて保管していますので・・・。詳しくは塔の管理を任せている者に聞けばわかりますが、・・・たぶん数十万点は下らないでしょう」
「すうじゅ・・・?」
 予想とケタが違う。シェゾは、危うくティーカップを落としかけた。国家規模級の博物館でも建造するつもりなのか、このオヤジ。その顔色の変わりようがかなり面白かったと見え、フライン氏は快活に笑い出した。
「ははは、驚かれましたかな。まぁ、無理もない。自分でも馬鹿だとは思いますよ。若い頃は欲しいものがあれば古今東西あらゆる美術商・古物商を訪ねてまわり、何処かで遺跡が公開されれば資金を作り、どんなに遠いところであっても必ず出かけたものです。レイエで競売が盛んに行われるようになってからは、貿易業にも手を出し、古品を手に入れるための資金繰りに励みましたよ。シェゾさんも、鑑定士という職業柄ならこの情熱をわかっていただけると思いますが。しかし、冷静になって考えれば全く100年も200年も前に使い古された品などに、なぜそこまで夢中にさせられてしまうのやら・・・。いや、しかし古い品には何かしらの力が宿りやすいと聞きますが、例えばドコソコのナニソレに出会った時なんて・・・」
 主人はどうやら自分の古品に関するコレクター魂が自慢らしく、すっかり自分の世界に浸り、得意げに今まで手に入れたレアモノについて説明し出す。が、シェゾはあまり聞いていなかった。
(あのヤロウ・・・)
 シェゾは、ここでようやく魔王の腹黒い算段を悟ったような気がした。サタンは多分(ていうか絶対)知っていたのだ。このフライン氏の所持する凄まじいまでの美術品の数を。
 あの魔王のことだ。召喚器は回収したいが自分で探すのは面倒くさい。そこで、シェゾを使った・・・わけだ。シェゾは強大な魔力を封じ込めた召喚器となれば全力で探してくるに違いないと考え、屋敷に乗り込ませたつもりなのだろう。
 そうしてシェゾに散々苦労させた挙句、最後はなんだかんだ理由をつけてシェゾにその魔力の一部も譲らない―――――そんな(ワケのわからん)シナリオを作り、自分は演出者気分で高み見物――――――

 そういう可能性を少なからず予想できたからこそ、シェゾはこの話に乗り気でなかったのだ。

 そんな魔王の手の平で遊ばれるようなコトにだけはなりたくない。シェゾはプライドが高いのだ。サタンの依頼に乗ったフリをしてここまできたが、腹の底では当然魔王を出し抜いてでも魔導器の魔力にくらいにはありつきたいと考えている。しかし、いくら魔力のためとは言え、魔王でさえやりたくない面倒な作業を押し付けられることは、いくらシェゾだってゴメンだった。おまけに、面倒な労力を払った挙句、魔力もお預け――――それこそ絶対にゴメンだ。

 果たして数十万点の美術品の中から(形もわからない)1つの召喚器を見つける労力を払った挙句、サタンに横取りされるような事態だけはシェゾ自身のプライドが許さない。こうなれば、何が何でも召喚器を見つけて魔力にありつくか――――あるいは、この仕事はメシとバイト料を頂くためだけに受けたものと割り切り、裏仕事を完全に放棄してやるか、だ。まあ、「後者」は半ば魔王に対する嫌がらせであるが・・・・・・その裏仕事が数十万点を越える美術品の中から形もわからぬ召喚器を見つけることだとあれば、シェゾでなくても「前者」はやる気が失せるというものだ・・・。

「ところで、アイギスさん。デイビスさまはお元気ですかな?」
『ええもう、元気過ぎて誰かに止めてほしいくらいですよ。こっちは忙しいっていうのに、そんなのそっちのけで、この暑さに頭もやられたのか、バカンス雑誌を広げては雪山で石焼ビビンバが食べたいなどと言い出す始末で・・・』
「ほほぅ、相変わらず旅好きな方なのですなぁ。しかしこの季節に雪山となると、かなり遠出になりますな」
『ええ、その旅が面倒なものだから、今すぐこの地に雪を降らせばいいではないか、なんて本気で言ってるんですよ』
「ははは、それはまた・・・いや、夢のあるお方だ」

 シェゾが裏仕事を真面目にやるかやらざるかを天秤にかけている間も、アイギスとフライン氏は相変わらず変わり者のデイビス支配人オーナーの噂話を楽しんでいた。

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