「フザけんな。部下に頼みやがれ」
『ハッハッハ、それがこういう人間相手の仕事に長けたウチの部下は皆、今月は忙しいらしいのだ!』
サタンは何がそんなに誇らしいのか得意げに手帳を取り出し、パラパラと捲って言った。
『若鳥ジョシーはキレると手がつけられんから却下。戦闘能力の高い風鳥ティファは、雷鳥ゼイルに耳引っ張られて一時的に里帰り、零鳥のジュノンはまた猫を大量に拾ってきたようで、エサをやらねばならんからと言って断りやがった。老鳥のヴァードリンは腰を痛めて療養中。孫鳥もその世話で忙しいそうだ』
魔族たちのあまりにくだらない理由にシェゾはめまいを起こしかけたが、向こうのペースに巻き込まれてはいけない。何とか自分の意識を保ちながら、非常識な魔王とその部下の話の理解にとにかく努めた。
「・・・み、ミロンドやナツキはどーした。南鳥のセイルもいただろうッ」
『その3人と他、ガレルやアルシーも電話帳を失くしたので連絡が取れない』
「何で電話帳が必要になるんだ! んな古典的な連絡手段より、魔族お得意の黒伝書鳩に命じた方が確実で早いんじゃないのか!」
『それこそフザけるな、だ。連絡にはこの黒電話を使うのが最近の魔界のセオリーかつ流行・・・』
シェゾはもう諦めた。このアホの問答に付き合ってると、脳みその半分くらいがとけてなくなりそうだった。魔界というところは、いかに人間の常識を大きく逸脱している闇の魔導師と言えどやはり理解不能の世界なのである。
シェゾは、(自称)魔界の王であるサタンが魔導世界で何をやっているのかをよく知っているワケではない。大陸の各地に様々な商店や酒場、学校などを部下の魔族に営ませながら、
裏で毎回“何か”を画策する機会を狙っているらしいということを、時々感じるくらいである。シェゾは、サタンの要領の悪さでその“画策”を遂行するに人手不足に陥った場合等に限り、
前触れなく塔に呼び出されては、その場限りの仕事を引き受けさせられ、形ばかりの報酬をもらっているに過ぎなかった。仕事の幅は広く、ただの人探しから魔物退治、魔導具屋のアルバイター、
魔導学校の臨時教師、酷い場合になると、アルルをターゲットにしたぷよぷよ地獄のステージボスなど様々であった。
ただ、サタンが要求してくる仕事には、内容のワリに見返りが大きいものが多い。
しかし、シェゾは、毎回サタンが完遂させたい“画策”が何を目的にしているかについては、あまり興味がなかった。そのいくつかに「アルルを妃にするため」に練られる計画があることを知ってはいるが、
できればそれにはなるべく関わりたくないとさえ思っている。なぜなら、そのホトンドが『春一番!ワクワクうきうき花粉症付きお花見大会!!』だとか『夏こそモテモテ!!水着とヘチマでぷよぷよ地獄』等、
どー考えてもくだらない馬鹿げた騒ぎのタネになるものだからだ。そして、毎度のごとく配下の魔物をこき使い、時には自分たちをも駆り出すなど散々周囲に迷惑をかけたのち、自滅するのがいつものお決まりのパターンだった。巻き込まれないことに越したことはない。
仕事を選ぶ権利は自分にもある、とシェゾは思っている。シェゾはサタンの部下ではない。自分のいいように使いたいなら、サタンは配下に多くの魔族を従えているはずで、その者達に命じれば済むことだと、シェゾは思っていた。
ただ、やはりサタンにその気があるのかは全くの謎だったのである。
サタンは言った。
『それに、私は今『海辺の古美術店で鑑定士をしてみないか』と言っただけで、まだ詳しい話はしてないぞ』
「・・・オレはキサマの部下ではないと言っているんだ。キサマが趣味で経営しているような店に、いいように使われて堪るか」
『・・・あのな、親切に仕事を紹介してやってるのに、なんつー言い草だ。マヴダチやめるぞ』
「ああ、結構だ。もとよりオレは他人とつるむ気なぞ・・・って待て。オレがいつキサマとダチになったッ」
『全く、やる気どころか愛想もナシか。まぁ、とにかく聞け。今回の仕事依頼はリッチだぞ。なんせ、豪華三食昼寝付きでなんとアルバイト料までもらえてしまう!』
「・・・・・・なに?」
半分勢いで依頼を蹴ろうとしていたシェゾが、初めて依頼に興味を持った瞬間だった。
“三食付”のところで急に目の色を変えたシェゾに、サタンが思わず“そんなに切り詰めてんのか?”とホンキで哀れに思ったのは、また別の話である。
『それに私は何もお前に、店で働けと言っているワケではない。お前なんか店頭に置いたところで営業スマイルのひとつもできんだろうし、初めから何も期待しとらんわ。そうではなく、お前には我が店が推薦する優秀な美術鑑定士として、ある富豪の屋敷に出張して欲しいのだ』
「・・・出張?」
『左様』
サタンは、ようやく本題に入れたとばかりに、デスクの上の一通の書簡を手に取った。
『仕事を引き受ける気があるなら、よく聞けよ。これは、ブルヴァナのレイエで私が経営している店に届いたばかりの仕事の依頼書だ。あー、・・・ブルヴァナは知っているな』
シェゾはすぐさま知識の一片からその国の名を引き出した。100年以上世界各地を旅して来たシェゾにとって、世界の常識的地理知識はほぼ完璧に近い。
「西洋の海洋王国で、交易の要所だな。昔から美術品の交易で栄えてた・・・。レイエはその中心都市」
シェゾはサラサラと答えた。以前に幾度か・・・いや、このシェゾのこと、今でも頻繁に行き来している都市のひとつだ。なぜなら―――――
『そうだ。各国の要人や貴族らがこぞって珍重品を競り落としに来る、競売でも有名な街だ。ウィッチと並ぶ世界屈指の珍妙品蒐集が趣味のお前が知らんはずはない』
「ふん」 ―――――まぁ、そういうことだった。
『で、だ。実は私はその一角に、まぁそれなりの仕事を受け持つ古美術店を持っている。古品の売買や鑑定だけでなく、失われた美術品の捜索、作品の修復・加工(←マテ;)・保管、たまに出張鑑定なども行うとっても気前のいい店だ』
自分で言うな、とシェゾは声に出さずツッコミを入れた。ちなみに、その“それなりの仕事をする”店をアイギス一人に任せ切りにしているという事実は、ここで触れられることはなかった。
『書簡の差出人は、店の得意先のひとつ―――資産家アルベル=フライン氏。コイツは無類の珍妙品コレクターでな。先月もどっかの遺跡の調査利権を買いとって、未鑑定の美術品やら宝石やら珍獣の化石やらを大量に手に入れてきたらしい。あまりにジャンルが無頓着なので、どこの鑑定士協会でも断られたらしいな・・・まぁ、それはこっちの話だ。で、その品々の鑑定のために、私の店に優秀な鑑定士の紹介を頼んできた。当然、気前のよさがウリの我が店は、二つ返事で引き受けた。・・・しかし、現在当店で手の開いている部下がいない』
アホか。と、呟きかけたのはシェゾだけではなかったに違いない。人手がないなら断れよ。
「―――――つまり、その紹介を受けた鑑定士として、オレにその屋敷に出向けと?」
『いかにも』
サタンは得意げにフライン氏からの手紙を読んで聞かせた。
『派遣期間は約1ヶ月、鑑定作業の進行具合によって多少前後する可能性もあるが、雇用期間中は屋敷に部屋も用意されるし、きちんと食事も出すと言っている。しかも仕事に応じて報酬も弾むらしいぞ。相変わらず珍妙品に関しては羽振りのいい人間だ』
この仕事は、今のシェゾのとってすこぶる魅力的だった。シェゾは先月、興味のある魔導書が数冊王都で競売に出されていたのを知り、壮絶な競り合いの末、莫大な金額をスッたばかりである。おまけにシェゾは、(自慢じゃないが)美術品の鑑定力=つまり、目利きにはそれなりに自信があった。問題があるとすれば―――――
「一応聞くが・・・オマエはなぜ、オレにジャンルを問わず貴重品の鑑定ができると踏んだ?」
この妙なところでチャランポランな魔王のこと、『魔導師』という職業と『鑑定士』という職業を、単にごっちゃにしている可能性もあると考えたシェゾだったが――――――それはどうやら杞憂だったらしい。
『フッ、少し考えればわかることだ。貴様とて伊達に長い時を一人で魔導師をやってきたワケではあるまい。私はこれでもお前が生きた時間よりも長く人間を見てきたのだ。・・・特に魔導師をな。各地のギルドで仕事を請け負い、その収入だけで生きてるヤツもいるようだが、お前を含む少数の者は違う。・・・仕事のついでに貴重なアイテムを集めては、売りさばくことで巨額の富を得ているだろう。
・・・遺跡で集めた貴金属、競売で手に入れる美術品、これら高く売れそうなモノを厳選する能力・・・つまり鑑定能力は、お前の今までの人生を左右してきたはずだ。生活の足しにするのはもちろん、より貴重な薬草・アイテム・魔導書を競り落とす時の、あるいは闇商人から情報を集める時の、失われた魔導器を捜索する際の資金にする・・・そんなことを長くやっているお前のことだ、相当な目利きなハズだろう。違うか?』
「・・・・・・」
シェゾは、「そりゃ、正確には間違いだ」と言ってやろうかと思った。・・・言わなかったが。
実際には、あらゆる古品に対して目利きになったのは富を得るためではない。生きるためだった。実際、徒党を組まない魔導師が世で生きようとすれば、目利きになるしか道はない。一応、各地を放浪する冒険者のために『ギルド』という日雇いの仕事を紹介する組織もあるが、その仕事もほとんどがギルドに
しかるに、徒党を組むことなくそれなりにやっている――――それどころか、貴重な魔導書やアイテムをいくつも手に入れているシェゾのこと、鑑定能力はたしかにプロ級と言っていいのかもしれない。
『まぁ、心配するな。お前さえやる気なら私はデイビス古美術商店のオーナーとしてお前を一級鑑定士として推薦し、屋敷へ送り込む手はずを整えてやろう。何なら
「・・・・・・」
シェゾは黙りこんだ。・・・確かに、ここまで来ると断る理由など無くなってしまう。
――――――むしろ無さ過ぎて、気味が悪いだろ。
シェゾはサタンに対して露骨に警戒を強めた。
要するにサタンは、『鑑定士として資産家の屋敷に出向き、約1ヶ月間テキトーに仕事をこなして食うモノ食って寝ていやがれ』、と言っているのである。しかも報酬まで出るというのだから、話が上手すぎることこの上ない。
ありがたい話だが、当然これだけで済むはずが無いのだ。シェゾの鋭い直感だけでなく、彼の全神経がそう訴えていた。シェゾはことの核心に迫った。
「なぜ、そこまでして
『それはもちろん、裏があるからに決まっている』
サタンは、それに気づいて当たり前だというようにニヤリと笑った。しかし、その表情は次の瞬間には消え失せていた。
2人の間の空気が一瞬 張り詰めた――――いや、張り切らぬうちにサタンはゆっくりと言う。
『・・・お前は暗黒召喚器の名を知っているだろう』
■ ■ ■
――――――・・・・・・!
「暗黒召喚器・・・?」
サタンの言葉に、今の今まで気配さえ露にしなかった“闇の剣”が緊張した。その突然の緊張を意識下でシェゾは捉え、半ば無意識にシェゾは異空間で佇む剣に自制を要求した。脳裏に、剣の意志がピリピリとちらつく。
刺激の信号に過ぎないが、剣はシェゾに魔王の話を慎重に聞けと忠告しているようだった。
サタンはシェゾたちの緊張をよそに手際よく『召喚器』に関する資料を提示していた。
『暗黒召喚器とは、古代の暗黒魔導時代に作られた闇の力を召喚するための魔導器の総称だ。お前の持つ闇の剣もそのひとつに数えることが出来るだろう』
サタンが剣へ意識を向けた途端、闇の剣が切っ先を鋭く光らせたようなビジョンをシェゾに送る。殺気を含む冷たいビジョンだった。
(・・・おいおい)
意識の中でいつになく興奮気味の闇の剣に、シェゾは内心少し焦った。いつもは冷静な物質なだけに、ふいにこのような激しい感情を送ってこられると、異物を飲み込んだ時のような吐き気を催すことがある。この状態は、シェゾはかなり苦手だった。
「・・・・・・う・・・」
『こらこら、余所見をするな。仕事受ける気あるのか、お前は』
思わず頭をもたげたシェゾの身体を、サタンが強引に引き戻した。当然、シェゾの気分は悪化した。
『まぁ、100%呪われているだろう古代の迷惑な機器の回収だ。頭の痛い話なのは良くわかる。わかるが、まぁ聞け。とりあえず、私が知っていることを言う。一回で覚えろよ、私はオウムではないのだ』
よくしゃべるところは変わらない・・・と、吐き気を押さえ込みながらシェゾは思った。
『実はな、先月までブルヴァナの調査に当たらせていた部下から、奇妙な報告が入ったのだ』
サタンの話ではこういうことだった。
レイエで古美術店の経営を担当させているアイギスという部下が、最近アルベル=フライン氏の屋敷へ商品を届ける際、時々奇妙な気配を感じると言ってきた。最初、サタンは屋敷の中で魔物か何かを飼っているだけで大したことはないと思ったのだが、アイギスに言わせれば、いつまで経っても街にそのような噂は流れてこないのがおかしいと言う。
『レイエは古美術品などというワケのわからん珍しいモノが大好きな連中が集まる街だからな。秘密裏に危険な魔物を持ち込んで、国の監査を上手く逃れていることなどよくある話だ。・・・ただ、アイギスが言うには、そういうことはどうしたって大きな組織が裏で関わるものだから、同業者の間で必ず噂になるはずだと言うのだよ。当然その噂は、私が経営する店にも入るはずだと』
ところがそんな噂はトンと耳にしない。そこでかなり慎重に調べてみたところ、屋敷の周りに闇に属する魔物でない何かの力が滞留していることを突き止めたという。普通の魔導師や下級魔族なら気づきもしないほどの微弱な気配だが、優秀で用心深い魔族であるアイギスだからこそ気づけたらしい。
サタンは声を落とした。
『私も独自に調べてみたのだが、確かに闇の力が召喚されている。しかも気配はなかなか上手く消されているのだ。まぁ、魔王の私の目まではごまかせぬがな。気配こそ微弱だが、力はかなり強力なものだ。ここまで巧妙に大きな力の召喚が行われているとなれば、当然人間の・・・まぁ、人間
「・・・ずいぶん安直だな。闇の力を密かに召喚するだけなら、召喚器に頼らずとも何かしらの方法、例えば禁忌の術の類でもありそうなもんだ」
シェゾは、自分の頭を整理するためにそう言ったが、先刻から緊張を解こうとしない闇の剣を落ち着かせる意味もあった。サタンはサタンで、シェゾが召喚器の存在を否定したことに微かに渋い顔をする。
『まぁ、理屈の上ではそういうことになるんだが・・・』
『しかし闇の力を強力にしかも水面下で召喚せしめる手法は、今の世にそうあるものでは無い』
「・・・・・・おい」
今度はシェゾが渋い顔を露にした。普段無口な闇の剣が、異空間にしまわれたままシェゾ以外の者にも聞こえる『声』を発したからだ。
『真に暗黒召喚器なら、人間の手や意思に触れずとも自身の意思で闇を喚び続けることが可能だ。屋敷の何かの力を利用して、召喚器自身が力を集めている可能性は充分にある』
シェゾは再び頭を抑えた。剣は、力が集まる原因が“召喚器”とは限らない、というシェゾの意見に反論したいらしい。その剣圧をぶつけたような衝撃に、シェゾの頭はグラグラした。
『・・・そうして、自身の集めた力を使いこなせる者が現れるのをじっと待つ。かつての我がそうだったように』
剣が話を割るのを待っていたかのように、サタンがフッと静かに笑って言った。
『思ったより遅かったな。だがこの手の話を続けていれば、いずれ声をかけてくれると思っていたぞ。・・・闇の剣よ』
『ふん・・・』
「・・・・・・」
シェゾは心の中で(つまり、闇の剣だけにわかるように)舌打ちをした。
正直なところ、シェゾはサタンと闇の剣が会話することを快く思わない。この二者の間には自分よりも遥かに長い時を隔てたところに繋がりがあるようで、それは時に自分と闇の剣との呪われた絆より深いモノをも感じさせる。その深みは、回りまわって自分自身の運命とも深くかかわることでもあることがわかるだけに、二者の間に自分の理解し難い“繋がり”をまみえることは、シェゾにとって不愉快だった。自分の知らない自分の運命を自分ではない二者の方が知っているという状況が、シェゾをイラ立たせる原因だった。
闇の剣はシェゾの不満を汲み取ったのか、旧友との再会を喜ぶような態度のサタンを黙殺した。代わりに、意識化でシェゾのみに語りかける。
――――――主よ。我は今回、主が魔王の依頼に応じることに素直に賛成できぬのだが・・・
――――――なぜだ?
『なんだ、闇の剣。お前はこの件の召喚器に、自分の主を奪られるかもしれないとでも警戒しているのか?』
会話を読まれたらしい。シェゾは無言で魔王を睨んだ。
『断じて違う。もし、その召喚器が我が主を同じく主と認めようと、我と主の絆が瓦解することはない』
『まぁ、そう目くじら立てないでくれ。今回の仕事の依頼者はあくまで私なんだから、お互い隠し事はナシとしようではないか』
「・・・・・・・・・」
――――何を偉そうに。シェゾは、魔王にもう一度冷たい一瞥をくれてやり、何度目かの舌打ちをした。
いつも同じようなことを言って、結局一番隠し事が多いのはこの魔王自身なのである。
しかし、それは依頼を蹴ることに直結はしない。何と言ってもメシとバイト料である。シェゾは話を戻すことにした。
「それで。要は仕事の傍ら、そのフライン家に集まる闇の原因を突き止めればいいのか」
『まぁ、な。そしてもし、原因が暗黒召喚器だと断定できれば、是が非でも召喚器を回収して欲しいのだ。そうでなくても、闇の力が私の監視外で働くことは好ましいことではない。このまま力が召喚され続ければ何かことが起こるやもしれん。やはり原因を突き止め、速やかに解決を図ることが望ましい』
――――――我が主が召喚器と接触することで、事が起こるとは考えぬのか。
闇の剣は意志を声にすることを止めたらしい。サタンに対して、声を聞きたいなら自分で読み取れ、ということだ。
『なぁに、大して心配はしていない。シェゾは闇の力に関しては、そこらの魔族よりもエキスパートだからな。部下に回収を命じてヘタに力を暴走させられるより、よっぽど信頼できるさ』
――――――・・・・・・。
冷たく黙り込む時は闇の剣をよそに、サタンはいつものように高笑いを繰り返していた。あまりに空虚なその様子を見かねて、シェゾは軽くため息をついた。
「・・・・・・つまり、オマエはオレに美術品を鑑定するフリして、屋敷から召喚器を泥棒しろと言っているわけだな」
『・・・そう身もフタも無いことを言うな、世界の秩序を守るための慈善事業だ。時の女神もコソ泥・ネコババ・食い逃げぐらい目を瞑るさ』
「・・・呆れて罰を下すのもアホらしい、の間違いだろ」
『まぁ、ネコババであれ、コソ泥であれ、深く考えることではない。引き受けてくれるのならば、続きを話すぞ。お前には早速明日からそのフライン家へ乗り込んでもらうことになるのだ。という訳で、今度はそのフライン家とその屋敷の特徴だが・・・』
「へいへい」
一応聞くフリはしたものの、実はシェゾは、その後のサタンの話をあまり聞いていなかった。聞かなくても、最低自分に損は無いと考えたからだ。むしろ、真面目に聞いた方が損をすると考えた―――――この頭の回転の速さが、魔族と長年付き合ってきたシェゾの苦労の賜物である。
サタンの話を真面目に聞いていたのは、シェゾよりむしろ闇の剣だったのかもしれない。