1. 接着と粘着
1.1 接着の機能
接着剤はものとものとを接合し一体化するための材料である。一般に、初めは粘度の低い液体で接触面積を稼いでいき、被着材を接合した後に何らかの手段(化学反応、溶媒揮散、温度変化など)によって固化し、接着界面において高い接着強さを発現するものがいわゆる接着剤である。
これに対して、初めから高粘度で低弾性率の半固体であり、接合形成後もその状態が変わらないもの、つまり固化の過程が必要でないものが粘着剤である。粘着剤を合わせて広い意味では両者を接着剤とよぶこともある。しかし粘着剤はそのままでユーザに提供されることは無く、各種のフィルム上にコートした形の粘着製品として使用される。接着剤の性状および固化の方式による分類を表1-1に示した。
これらの接着剤は単にわれわれの日常生活において便利に使われているばかりでなく、多くの産業界において不可欠な材料となっている。例えば、種々の素材を接着剤で一体化した複合材料にすることにより、単一の素材では出すことのできない高度な機能を発現させている。接着剤を使うことによって素材の欠点を除去した優れた材料をつくりだすことができるわけである。エレクトロニクス分野においては複雑な機能を併せもった材料が要求されるので、材質の異なるフィルムが幾重にも積層されるが、ここでは粘着剤が重要な役割を担っている。このように最終製品をみただけでは目立たない場合があるかも知れないが、よく調べてみると、われわれは接着剤や粘着剤あるいは接着技術や粘着技術と無関係ではあり得ないものに囲まれて生活していることがわかる。今後も新しい機能性材料やそれらを組合わせた製品の開発と歩調を合わせて、接着剤や粘着剤の方も多彩な発展を続けていくことになるだろう。
1.2 接着と粘着
粘着というのは、高粘度液体に一般的にみられる現象で、我々の日常生活の中では澱粉糊や合成糊を使用する時、また食品類を料理する時などに現れ、その性質を積極的に利用し、また防ぐために種々の工夫をしている。一方、多くの製造・加工業の中でも、この粘着は、接着剤の塗布以外に、印刷時のインキの挙動、塗料の塗装面、ゴムシートどうしの自着等に数多く見られるありふれた現象である。
そして同時に工業界にあってはこの現象が最重要な因子であることが多く、その性質を積極的に活用している。もちろん粘着テープで代表される粘着製品では、これが製品の代表特性とされている。この粘着テープは、現在では広い分野で多様な使われ方がされている。
また、同じ分野で接着剤も広く使われている。では粘着剤と接着剤ではどこに違いがあるのか?英語ではともにAdhesiveで、表現上の差は無く、特に粘着を強調するときに Pressure-sensitive Adhesive (感圧性接着剤) と呼ばれている。JIS(日本工業規格)によれば、接着とは「同種または異種の固体の面と面を貼り合せて一体化した状態」であり、粘着とは「接着の一種で、特徴として水、溶剤、熱などを使用せず、常温で短時間、わずかな圧力を加えるだけで接着すること」とある。溶液型接着剤、熱硬化型接着剤、ホットメルト接着剤など、接着剤の一種に感圧性接着剤があるという考え方で、簡単に貼ることができ、いらなくなったとき剥がせるのが粘着剤である。
しかし<接着と粘着>と二つを並列に並べたときには、その用語の中には明確に区別されたイメージがある。
<接着> 界面での接着が理想的になっており、剥離時、両側の被着体に接着剤が残るいわゆる凝集破壊が理想的である。従って接着剤層が薄いほど強く、厚いとボイドなどの欠陥部に応力集中が起り接着力が低下する。
<粘着> 剥離時に凝集破壊をおこさず、被着体に糊残りしない状態が理想的であり、このため、必然的に界面の接着力が少し弱くなっている。従って剥離応力が粘着剤層中に分散するように、柔らかく厚くなっており、また粘着剤層は厚いほど接着力は強くなる。また、貼り合わせると直ちに実用に耐える接着力を発揮するために、初期タック(単にタック)が強い必要がある。このため、粘着剤は、被着体に濡れていくための流動性と、剥離に抵抗する凝集力という相反する2つの特性が要求される。
そして図に示すように、接着剤は、貼り合わせるときには流動性のある液体であり、容易に被着体に接触し、濡れていくことができる。その後、加熱や化学反応により固体に変化し、界面で強固に結び付き剥離に抵抗する力を発揮する。液体で濡れ、固体で剥離に抵抗するのが接着剤である。これに対し粘着剤は、貼り合せるときもゲル状の柔らかい固体で、そのままの状態で被着体に濡れ、その後も、態の変化を起こさず剥離に抵抗している。このように粘着剤は、貼り合わせるとすぐに実用に耐える接着力を発揮する。このため、粘着剤は、被着体に濡れていくための液体の性質(流動性)と、剥離に抵抗する固体の性質(凝集力)という相反する2つの特性が要求されている。
1.3 粘着テープの特徴
この粘着を接着の一形態としてみたとき、その一番の特徴は、貼り合わせると直ちに実用に耐える接着力を発揮することにある。そして粘着剤は、接着剤のようにバルクで販売・使用されることはなく、必ず薄い均一なシート状に塗工されるか、支持体の片面又は両面に薄く均一に塗工された、テープ状もしくはシート状の粘着製品であり、支持体の機能と粘着、均一な厚さの接着剤といった複合機能の製品として販売されている。
1.3.1 粘着テープの構成
この広い分野で多様に使われ、原材料も多岐にわたっている粘着テープであるが、その構成は簡単で、粘着剤とそれを支える支持体(基材)が主な構成要素である。
ここで、剥離剤は、粘着テープを軽く巻き戻す目的で塗工されたものであり、低エネルギー表面を有するシリコーンや長鎖アルキル基が、また特殊な場合には弗素樹脂などが使用されている。下塗剤は、粘着剤と支持体との密着性を向上させる目的で使用されるもので、両者に親和性のあるものが選ばれるが、粘着剤と支持体の組合せによっては不必要な場合がある。また(b)、(c)のタイプでは粘着剤が接着するのを防ぐために剥離ライナーが必要である。この剥離ライナーは、シリコーンを片面もしくは両面に塗工した紙、又はポリエステルフィルムが多く使用されている。
(a)の構成の粘着テープとしては、事務用セロハンテープ、包装用紙粘着テープ、包装用OPP粘着テープ、電絶用ビニルテープ、ポリエステルテープなどがあり、これらは主として支持体の特性である強度、絶縁抵抗、耐電圧性、耐水性、防湿性、透明性等の性能を充分に発揮させ、且つ容易に使用できるように粘着剤が塗布されている。
それに対し(b)の構成の両面粘着テープは、2つの物を接合するという接着剤そのものである。用いられている支持体としては、日本では不織布が多く、家電品の化粧パネル等の銘板固定用や自動車内装品の接着用など広い範囲で使用されている。その他の支持体としてウレタンやポリエチレンの発泡体があり、柔軟性を高めて粗面への接着に用い真の接触面積を大きくしたり、曲面への接着に用いて歪みや内部応力の緩和を図ったりしている。
1.3.2 両面粘着テープは接着剤
このように、ユーザが接着という機能を考えたとき選択肢となるのは粘着剤ではなく両面粘着テープである。したがって表1-1の分類は接着という機能から見たとき表1-3のようになる。
図1-3に示したように簡単な構成の粘着テープであるがその価格はかなり高く、汎用両面粘着テープの場合、約500円/uであり、粘着剤の塗布量から換算すると約4,000円/kgとなり、一般の接着剤に比べてかなり高価である。
粘着テープが高価であるにもかかわらず、広範囲に使用されているのは、表1-4に示すような特徴を有しているからである。粘着テープは通常の接着剤のような使用にあたっての態の変化(液体から固体)を必要とせず、貼合せると直ちに実用に耐える接着力を発揮する(感圧性タック)という使用上の簡便さや、使用に当たり溶剤や加熱を必要としない無公害、安全性、良好な作業性などを有している。
また、接着という機能を考えた場合、通常の液体の接着剤では、使用現場で均一な厚さに塗布するのは相当に困難であるが、両面粘着テープを使用すれば、標準偏差数μmという均一な接着剤層が容易に入手できる。この均一性や作業性のために、非常に高価であるにもかかわらず、電化製品の外装・装飾(アルミパネルの貼合わせ)や自動車の内装など広く用いられている。
さらに近年は、両面粘着テープを打抜き加工し、複雑な2次元形状を持った接着シートとして、製造ラインで通常の接着剤が塗布できないような部分、例えば電卓キーボードの化粧パネルなどの接着加工に用いられている。