MASERATI MERAK
シトロエンがマセラティを買収した頃は、マセラティは技術的に最低の時期であるのみならず
財政的にも崖っぷちに立たされていた。古くからのライバルであるフェラーリに太刀打ち出来ない
ばかりか、新進気鋭のランボルギーニに加えて、デ・トマゾとイソ・リボルタも高級スポーツカー
市場に参入し、大変な競争状態にあったのである。そこで、マセラティはメキシコ、インディそれに
何の変哲も無いクアトロポルテ用には古い直6エンジンに代えてV8を搭載することにした。
それにしても、このV8はフェラーリやランボルギーニのV12ほどの魅力を備えていなかったし、
デ・トマゾやイソの米国製V8ほど安価でもなかったのである。
問題は、ギブリのデザイン面での成功と、新たなパートナーであるシトロエンの技術とによって
少しは明るい未来が開けるかどうか、であった。当面−1968から72年にかけて−問題は何も
改善されそうになかった。シトロエンのステアリングやサスペンションやブレーキは既存のシャシー
には積めそうになかったし、SM用に開発されたV6エンジン−当然のことながらマセラティは自社の
製品に搭載出来た−は、既存の重いFR車には向いていなかった。
そんな訳で、勇敢にもマセラティは全ての既存の車種を廃止し、シトロエンの技術を最大限に利用
したミッドエンジンのスポーツカーを開発することにした。その最初がボーラで、シトロエンの空力技術
の応用で、280馬力の4.7LV8エンジンで280km/hの高性能とリッター6km以上の燃費を可能に
した。デザインを担当したのはイタル・デザインのジウジアーロであることは言を待たない。
のリトラクタブル機構に使用されているに過ぎない。(GTカーのカムシンではDIRAVIステアリングが
そのまま使用されていた)。サスペンションは前後共ダブルウィッシュボーンにコイルと油圧ダンパー
ステアリングも通常のパワーアシスト付きで、ブレーキペダルも円形ボタンでは無く、普通の形の
ペダルが使用されている。初期型ではSMのメーターパネルと、特徴的な1本スポークのステアリング
ホイールがそのまま流用されていた。(後期型ではイタリアンスタイルのダッシュボードに変更)
メラクは1975年には排気量2965ccのまま、バルブ径の拡大などのチューニングを施した220PSの
メラクSSに発展した。メラクSSではダッシュボードはボーラと共通になり、SMの油圧ブレーキも廃止と
なった。又、イタリア国内向けには税制面の配慮から、2000ccのメラク2000GTが販売されていた。
1983年に生産終了するまでに626台のメラク、993台のメラクSSと190台のメラク2000GTが生産された。
次にボーラを若干手直しして
SMの6気筒エンジンを搭載した
のがメラクである。ドアパネル
より前は事実上ボーラと同一で
あるが、エンジンがコンパクトな
分、2シーターのボーラに対して
+2の後席が確保されている。
エンジンはSM用2965cc版だが
チェーンテンショナーやオイル
ポンプ周りは若干手が加えられて
おり、キャブレターもSMとは異なり
42DCNF31(両端の2個))と42DC
NF32(中央)が使用されている。
メラクで特徴的なのは何と言っても
SM譲りの油圧装置だが、SMと
異なり、前後ブレーキとヘッドライト
何処かで見たような景色だが、これは
SMでは無くてメラクのエンジンルーム。
発電機とエアコン・コンプレッサーの
位置関係が逆になっている。
発電機、コンプレッサーは国産品に取り
替えられてあり、フルトライグニッション
(LUMENITION製)が後付されているが、
その冷却用に可愛らしいファンが付け
られている。
右端の緑色の缶がLHMのリザーバー。
冷却水のリザーバー(通称湯たんぽ)も
SMと共通だ。
エアフィルターは失せてしまっている。
新しいバッテリーを繋いだら、エンジンは
掛かったが、かなり手を加える必要が
ありそう。
知人の伝手を頼って調査したところ、このメラクは元々関西にあって6、7年前に奈良の某ショップに置いて
あったのが目撃されていました。その後関東に流れ、私が見つけた岐阜の某店に来たのが3、4年前。
そこで抹消登録されていました。奈良にあった時点でリアのライト類は純正に取替えた様ですが、フロントは
バンパー消失、ポジションライト、ウィンカーランプは2輪用と思われるものを流用してある他、ワイパーやドア
ミラー、ホイールも純正では無く、塗装の状態も余り良好とは言えません。何より肝心のSMのダッシュボードや
ステアリングホイルが全く別物に取替えられているのが頂けません。しかし幸いこれらは部品取り車のものが
そのまま利用できます。主治医の診断ではエンジン自体はスムーズに回っているので、セカンダリーチェーンと
ウォーターポンプのシール取替え位で大丈夫だろうとのことで、取敢えず次のようなレストア・メニューを作りま
した。
| エンジン関係 |
カムチェーン取替 |
|
ウォーターポンプシール取替 |
|
マフラー取替 |
| 燃料系統 |
キャブレターOH |
|
燃料ポンプ取替 |
| 駆動系統 |
クラッチOH |
| 冷却系統 |
冷却水リザーバー取替 |
|
冷却配管更新 |
|
サーモスタット取替 |
| 電気系統 |
セルモーターOH |
|
発電機OH |
| 補機関係 |
補機シャフトカップリング取替 |
|
補機シャフトプーリー取替 |
| 内装関係 |
計器盤、ステアリングホイル、
シフトレバーノブをSM純正品
に取替 |
| 外装関係 |
前ポジションライト、ウィンカー
を純正品に取替 |
|
ウェザーストリップ類の更新 |
取外したクラッチとギアボックス。クラッチのスラストベアリングは
だいぶ磨耗していた。
エンジンのカムカバーを外したところ。
状態としてはかなり良好で、チェーンの緩み
や磨耗状態から判断して5万km程度走行
の個体ではないかとの主治医の診断。
主治医の手により、セカンダリーカムチェーン
ウォーターポンプ、サーモスタットを交換、OH
したクラッチ、キャブレターを組み付けられた
マセラティC114.1130 3Lエンジン。
表面は工業用シンナーで洗浄の上、耐熱
ペイントのスプレーで化粧され見違える様に
美しくなった。
ウォーターポンプやサーモスタットはエンジン
前方(写真の左端)ファイアウォールとの間に
位置し、SMより作業性が悪く、ウォーター
ポンプ取替には流石の名医もてこずった由。
このエンジンに火が入る日もそれ程遠くは
ないだろう。
OHを終わって組みあがった補機ユニット。
SMのオリジナルの発電機ベルトは極めて細く、しばしば
ベルト切れを起こしがちである。そこで主治医はアルミ
削り出しの特製プーリーを製作、コンプレッサー、発電機共
共通の丈夫なAベルトで駆動するように改良してくれた。
これでベルト切れの悩みから解放される。
2種類のウォーターポンプ
左側のがSMに使われているブラス製の
インペラー。75年以前の初期のメラクにも
同じものが使用されていた。
右側は75年の途中から採用されたアルミ製の
メラク用インペラー。インペラーの材質以外に
も、シールの材質が前期型ではゴム製、後期型
ではゴムと金属の複合型となっており、大きさも
異なる。
このメラクには新型が使用されていることから、
製造時期が75年後半以降であることが判明した。
メラクのエンジンに火が入りました。
画像だけで音が出ないのが残念です
が、SMより遥かに迫力のある排気音
を響かせながら回っています。
エアフィルターはK&N製のウェバー
ダウンドラフトキャブレター用ダイレクト
フィルターを採用しました。
ホース類は全て新調。
排気マニフォールドと新調のマフラー
間の配管も直管で作り直してもらった。
残工事は、インパネをSMオリジナルの
ものに戻すことと、ウェザーストリップの
交換、ドアミラーやライト類の交換など
外装関係が主体となります。
路上復帰も間近です。
名医の手により約半年かけてメカニカル・
レストレーションを終え路上復帰したメラク
全長433cm、幅176cm、高さ113cmのボディはSMより遥かにコンパクトですが、重量は1.4トンを越えSMと余り
変りません。その所為もあってか、出だしはゆったりと、速度が上がるにつれて漸く勢いが付いて来る感じの発進
加速もSMと良く似ています。3Lエンジンは2.7Lより低速トルクが太い実感がありますが、高回転域での軽快感が
損なわれたような感じがあります。パワーアシストの無いクラッチは重くて渋滞時は疲れますが、ストロークは短く
スパッと繋がります。他方スロットルはたっぷりとしたストロークが与えられています。SMと共通の5速ミッションは
長いリンケージにも拘らず正確なギアシフトが可能です。SMの美点である油圧ブレーキは、そのままメラクにも受け
継がれています。メラクではあの半球型ボタンでは無くて、通常のペダルが採用されていますが、ストロークの事実
上皆無な独特のタッチの為、ヒール・アンド・トウは困難です。SMと最も異なるのはステアリングで、一切のパワー
アシストを持たないのでDIRAVIとは逆に低速で重く、速度が上がるにつれて軽くなります。路面のうねりなどで
容易に進路を乱されるので高速クルージングはSMのDIRAVIに軍配が上がります。メラクがSMに決定的に勝るのは
高速コーナリングで、ステアリングは事実上ニュートラルであり、低い着座位置も手伝って体感するロールも無く、
ステアリングを当てた分だけ驚く様な速度でコーナーを駆け抜けて行きます。乗り心地自体はハイドロのSMに比べ
るべくもありませんが想像するよりは遥かにソフトで、例えば愚息のDELTA INTEGRALEよりずっと快適です。但し
排気音を初めとしていろんな機械音が間断なく伝わって来るので些か耳が疲れます。エアコンは良く効くので30度
程度の外気温では室内は快適ですが、ミッドエンジンは見かけより放熱が良く無い様で、渋滞の中ではしばしば
温度計がレッドゾーンに飛び込みかけるのでエアコンを切ってやる必要があります。

SMでは無くてメラクのコクピット。
SMとの違いを何箇所言い当てる事が出来る
だろうか。5ヶ所以上正解できれば貴方は
相当なマニアです。
(正解)
1.ラジオの位置
2.パーキングブレーキの位置
3.シフトレバーのダストカバー
4.ドア・ハンドルの形状
5.ブレーキ・ペダルの形状
6.足元の丸いエアー・アウトレット
7.パワーウィンドウ・スイッチの位置
8.インパネ左端のヘッドライト格納スイッチ
9.鍵の掛かるグローブ・ボックス
漸く路上復帰したメラクでしたが、どうもそのご面相が気に入りません。写真で見る本来のメラクよりもノーズの先端が
長すぎるし、開口部も狭くてバンパーレスになったフロントの形状は全く正体不明で、何やこれ?と言う感じでした。
しかし開口部から手を突っ込んで探ってみると、どうやら本来のボディの形状はそのままで、FRPのノーズを上から
嵌めてある様な感じです。そこで、この種のクルマの塗装にかけては関西一、二と言われるN社に相談に行きました。
実はN社の社長さんは、私の弟の同級生で私の後輩にあたります。社長はしばしメラクを眺めて、ウーンと唸っていま
したが、ややあって、何とかやって見ましょうとの嬉しいご託宣がありました。一週間ほどして電話があり、ノーズが外れ
ました、元のボディの形状は保たれているので大丈夫でしょう、との事。後はN社の職人さんにお任せするだけです。
待つこと約1.5ヶ月、出来上がりましたとの連絡を受けて早速引取りに行きました。
完成したメラク。フロントバンパーは写真を頼りにFRPで製作して貰った。サイドウィンカーを本来の場所に移し、
ワイパーも純正品に取替えた。ついでに左右の窓サッシ、ウィンドシールド前のエアインテークもペイントを剥がし
隠れていたステンレスを磨いてもらった。これで誰が見てもメラクと分かるだろう。ジウジアーロの手になるボディ
デザインは、30年を経た今日でも全く旧さを感じさせない。
整形手術前のメラク。トライデントのお蔭で
辛うじてマセラティと分かる。シングルワイパー
黒に塗りつぶされたウィンドウサッシなど
気に入らない。
N社のアトリエで。フロントノーズを外してみると
元のボディ形状はそのまま保たれていた。
元々はエメラルドグリーンに塗られていたことが
分かる。
完成したメラクでもう一つ気に入らなかったのがホイール。購入の時点ではスピードラインのメッシュタイプアルミ
ホイールを履いていましたが、矢張り純正のカンパニョーロが欲しくなり物色し始めました。最初いつもパーツを
調達している米国のMIEに聞いてみた所、在庫有りとの事だったのですが現物は損傷激しく売り物にならない
との事。紆余曲折を経てヤフオクで2本、和歌山のKさんから2本首尾良く調達することが出来ました。ところが
最初気付かなかったのですが、ヤフオクの2本はアルミ、Kさんの2本はマグネシウムである事が判明しました。
寸法もパターンも全く同一ですが、持ち上げてみると重さが全然違います。Kさんのメラクは初期型である事は
間違い無いので、恐らくコストダウンの為に何時の頃からかアルミに変更したものと思われます。取敢えずリアに
マグ、フロントにアルミを履いてみました。スピードラインよりオフセットが少ないので見かけも大人しくなり、リア
のドタバタ感は軽減された感じがします。ステアリングロッドにガタがあるので、操縦性に付いては明確に判断
しかねます。ボールジョイントを取寄せたので取替えた上でフロントのアラインメントを調整して貰おうと思って
います。尚、タイヤはピレリP7ですが、往年のP7とは全くの別物で、見かけはなかなか良いのですがグリップは
ドライ、ウェット共もうひとつです。