阪神支局に赴任して半月。時折ふと思い出す、人なつっこい顔がある。

 「将来は、小さなホルモン焼き屋でも始めよう思うてるねん」

 この夏出会った碩義三(せきよしぞう)さん(60)。日雇い労働者の街として知られる大阪市西成区の釜ヶ崎(あいりん地区)を中心に、8人で労働者の絶望感を哀愁を帯びた調子のブルースで歌う「釜凹(かまぼこ)バンド」のリーダーを務める。

 歌詞は、メンバーが見聞きしたり、体験したりした不条理な話が多い。作業員宿舎から帰ってきたら妻に逃げられていた人、正社員との待遇格差に悩む派遣労働者、家族を病気で亡くした人――。釜ヶ崎の萩之茶屋南公園(通称・三角公園)で、ギターを片手に「なんでやねん」と歌う、いや絶叫する姿に、引き込まれた。まさしく魂の叫びだ。

 〈明日になったらな/おれも何かしようと思うねん/何でもええんや/誰か喜んでくれる/そんなことおれにも出来るんやないかとな――〉。約2年前、無職時代の碩さんが作詞した「釜のブルース」。どんな時も希望を失うまい、との思いを込めた。そして今、福祉施設に勤めながら、いつかホルモン焼き屋を開き、食べにくる人を仲間と歌でもてなす店を夢見ている。

労働者の叫び 熱唱

ライブに向けた練習で熱唱する碩さん(右から2人目)ら釜凹バンドのメンバー(大阪市西成区で)

 「仕出屋をしていたメンバーがいてな。味は保証するから、あんたも食べに来てや」と笑った。

 昼間からカップ酒を飲んで酔いつぶれる人がいる。賭け事に夢中な人もいる。だけど夢を持ち、一生懸命生きている人も大勢いる。つくづくブルースの似合う街だと思う。

 「ここはどんな音楽が流れる街なのだろう」

 そんな期待に胸を膨らませながら、秋風の吹き始めた阪神の街を歩いている。

(坂木二郎)

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染みるで「釜のブルース」

2011年9月19日  読売新聞)