丹波の恋

 「課長、またお見合い断られちゃったんだってさー。」

 いつも通りの1人井戸端会議が、
夕飯の味噌汁をつぎながら新しい話題に移った。

 「みんな見る目がないよねえ。」 と綴が差し出した椀を
 「・・・」           と丹波が受け取る。
 「美人なのにさあ。」
 「・・・」
 「学生時代だって、もてたんじゃないのかなぁ。ね?」
 「知るか。」

 他人なら殺伐とする受け答えであるが、さすがにこの兄と同居する妹。
珍しく戻ってきた返事に気をよくして、大きな声の独り言が続いていく。

 「どうしてかなあ。スタイルも良いし、色っぽいし・・・」

 ”だからだろ。” 
 たくあんに箸を延ばしながら、丹波は心の中で合いの手を入れた。

 ”バイオリン野郎め、ちゃんと気が付いたのか。”

 警察という男所帯、体格まで男並の女性も多い中あの容姿は目立つ。
微笑みかけられてのぼせた男が、同期だけでもどれだけ居たことか。しかし。


 ・・・何気なく肩に置かれる細く白い指。ほのかな香水の香り。
 寄せられた坂上の重みを思い出す自分を、目の前の妹に見透かされそうで丹波は慌ててビールをあおった。
 あれには毎度の事ながら動揺する。でも、同時に分かっているのだ。誰にでもしていることで、何の意味もないのだと。
 中身は時として見た目を裏切るのだ。

「・・だし、気さくだし、私みたいにでっかい訳じゃないし〜」
 
 手は食後のお茶の用意をしながら、綴はまだ同じ話題を続けている。まさか今日に限って、兄が聞いているとも思わないのだろう。


 否、大柄でも、面相がまずくても・・・柔道部時代の女子部員の1人を失礼にも思い浮かべながら・・・男が誘惑を感じる女はいくらでもいる、と丹波は思った。
 媚び。涙。甘え。隙。”守ってやりたい”と思わせる女の武器はいくらでもあるだろう。

 そうだ、坂上は・・・・。

 他の女とは違う。 
 なんといったか、風見の彼女。あれは「女」だ。見られている自分を知っている。
 
 綴はガサツなふりをしてそこを避けて通る。

 そして、坂上は気にしないのだ。女として評価される自分を。
 笑顔も、装いも、シナも自分の為にあって男に見せるためにはない。いつだって自分の足で立って誰かを守ろうとしている・・・。
 
 それを別の言葉で言うと。
 
 延々と続いていたらしい独り言がぐるっと一回りしたようだ。
 「・・・なんだし、ねえ? 課長の何が気に入らないのかなぁ??」

 「可愛いげがないんだよ。」 空いた皿を重ね、熱い湯呑みを持って立ち上がる。
 「ひどーい、お兄ちゃんたら!」
 お約束の抗議の声は、いつも通り無視されて閉められた個室のドアに跳ね返る。

 ”そこがいい”と続く兄の気持ちなど、まだまだ知る由もない妹なのであった。

 <end>


2002.08 byじゃすみん

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